見出し画像

おいしいものだけを売る

長きにわたって取材を続ける店があり、商人がいます。群馬・高崎市郊外、巨大ショッピングモールの脇にある150坪足らずの独立店。およそ5000品目の商品はいずれも選りすぐられた自慢の品というスーパー「まるおか」です。

たとえば、茨城・取手で創業140年余の老舗漬物店「新六本店」の奈良漬け。手づくりのため生産量が限られ、どこででも売られている商品ではありません。その奈良漬けに出合い、惚れ込んでしまったまるおかの店主、丸岡守さんは何度もアプローチして店のあり方を語り、販売させてもらえるよう訴えたそうです。

作り手の立場に立てば、手塩にかけてつくった品はかわいい愛娘同然。どこの馬の骨とも知れないところへは嫁にやれないのも道理です。しかし、丸岡さんの熱意に根気負け、ようやく店に並べられるようになったのは出合ってから5年後のことでした。

まるおかでは大切な奈良漬けのおいしさをお客様に伝えるべく、根気よく試食を繰り返し、その価値を伝えました。この店の売場には、一棚、一品にそんな物語があふれています。

そこにはどれほどの熱意と手間と時間がかけられてきたのでしょうか。売れるものを仕入れ力にものを言わせて揃えるチェーンストアが促成栽培のビジネスなら、一つひとつを玉のように磨き続けるまるおかは長期熟成の商い。

本物を求める求めるお客様はまるおかに惹かれます。いえ、正確にいうと、本物の価値を伝え続けることで、お客様をその世界へと導いたと言ったほうがいいでしょう。

店とは本来、物のやりとりを通じて、物のやりとりを超えた世界を見せるところ。奇跡のスーパー、まるおかの丸岡守さんの物語『おいしものだけを売る』は電子書籍として復刊の予定です。また購買できるようになったら、お知らせします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?