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ど根性商人のそれから

 
倒産した会社の社長が、営業停止した店舗の軒先で、その顛末を記した本を手売りする――そんな痛快なできごとのあった、ある夏の思い出。2017年12月、105年の歴史に幕を下ろした山梨・韮崎市の地域土着スーパー「やまと」の小林久さんは、そんな度外れた商いをやってのける“ど根性”の商人でした。

倒産からおよそ8カ月後の8月下旬、小林さんの商人として、地域生活者として、そして人間としての取り組みを記した『こうして店は潰れた』(副題 地域土着スーパー「やまと」の教訓)の発売を直前に控えた週末、小林さんの姿はやまと本社機能を置いていた旧・富士見店にありました。
 
編集を担当させていただいた者として、その現場に足を運んだのは自然なことでした。何の連絡もせずに訪れると、そこには元気な小林さんの姿がありました。そこへ引きも切らずに多くのお客さんが訪れ、真新しい新著を求めていくのです。

いえ、新著は一つの理由に過ぎないようです。みんな、小林さんの元気な姿が見たくて訪れていることがわかります。地主さん、お客さん、従業員、ライバル企業にお勤めの人ほか、みんな小林さんを慕う方々ばかりでした。

私は、そんなお客さんと小林さんとのやりとりを、ただ見守るだけでした。ああ、来てよかった――そう私が思ったように、多くのお客さんがそう感じていることがわかります。みんな、小林さんと接することで、彼の中にあふれる活力に触れたいのかもしれません。

『こうして店は潰れた』をすでにお読みいただいた方々のカスタマーレビューはこちらをご覧ください。多くの好評と、少しの反論。私が編集しながら想定した反応と近いものでした。このバランスが、本書の真価だと私は思います。

想定を超えていたのは、レビューの数。40を超え、発売から経つほどにその数は伸び続けています。それほどまでに小林さんは、関わる人を惹きつけ、放って置けない何かを持っていらっしゃるのです。

購入特典として用意されていた、やまとの買物かごやスタッフジャンパー、タオルに、小林さんのサービス精神が感じられます。「地域土着は敗北したのですか?」と、私はかつて小林さんに尋ねました。

すると小林さんは「いいえ、断じて負けません! お楽しみはこれからです」と即答。その言葉のとおり、小林さんは現在、全国各地でご自身の体験と、同じ苦しみを持つ事業者に勇気を伝えています。ぜひ、あなたも小林さんを呼んでください。あれやこれやと成功体験を聞きかじるより、そこに学びと元気があります。


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