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革製のスリッパに思う

小学生になるとき、学習机を与えられたあなたに質問です。いま、その学習机はどこにありますか? 次の5つから選んでください。

①今も愛用している
②誰かに譲った
③実家にある(はず)
④いつの間にかなくなっていた
⑤粗大ゴミとして捨てた

残念ながら①という人はほとんどおらず、②か③も少なく、多くは④か⑤だと思われますが、いかがでしょうか。私の場合は③でした。実家を出るとき置いたままで、そのまま置き去りです。

子供じみたデザイン、過剰な収納や照明といった不必要な機能が付いている、重くて場所をとるなど、その机を手放した理由はさまざまでしょう。大量生産、大量消費が美徳とされた時代は、それが当たり前でした。

そんな学習机の在り方に疑問を持ち、‘一生使える学習机’をつくった商人がいます。長野の善光寺門前通りに店を構える松葉屋家具店の瀧澤善五郎さんです。

「学習机は子供が初めて持つ自分だけの空間、居場所かもしれません。その前に座るのが楽しみな机であってほしいと誰もが考えます。とはいえ、その後、残念ながら多くの学習机が飽きられ、置き去りにされ、いつしか捨てられています。その子の価値観を醸成する大切なものであるはずなのに」

そう考えた瀧澤さんは、樹齢100年以上の天然広葉樹、飽きのこないシンプルなデザイン、塗装には亜麻仁油と蜜蝋、接着剤にはニカワと自然由来の素材を使った学習机をつくりました。同店の商品開発の思想を込めた一品です。

そうしたものづくりの思想を、松葉屋家具店ではニュースレターなどを通じて伝えています。ここで紹介したいのは、入り口に置かれたスリッパです。

同店ではお客様との物理的、精神的距離を縮めるため、靴を脱いで入店してもらうように変えたそうです。目の前にあったのは革製のシンプルなスリッパでした。

このとき、置かれているスリッパが石油由来プラスチックでつくられているものだったら、お客様はこの店の主張を信じるでしょうか。否、でしょう。

神は細部に宿ります。自身が商いをする世界観をいかに伝えるか? そのときスリッパ一つが大切だと知った取材でした。

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