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術にとどまるか? 道に進むか?

「商売の目的は、お客さまに喜んでいただくこと。それなのに、商人の多くが『いかに人をだまして儲けるか』に躍起なっている。儲けることばかり考えている商人は“術”の世界に陥っているのです」

公正で公平や社会活動について考えるとき、いつも思い出すのが、取材で出会ったある経営者が教えてくれた「術」と「道」の違いです。「術」とは人をたぶらかすものであり、「道」とは己を磨くものであると彼は言いました。

「術は道にならないと世に残りません。だから剣術は剣道に、柔術は柔道になって今日まで継承されていますが、術にとどまった忍術は滅びました。多くの商人は道を学ばずに、術ばかり研究している。商いも“商道”にならないかぎり残っていけないでしょう」

術とはテクニックやノウハウであり、道とは在り方や生き方のこと。前者を無駄だとは言いませんが、後者という根本があってこそ意味を持ちます。道という根と幹がしっかりしていてこそ、術という枝や葉は勢いを増し、その先に儲けという花と実をつけられます。


商業界創立者、倉本長治の唱えた「商売十訓」の一つに「公正で公平な社会的活動を行え」とあります。では、社会的活動とは何でしょうか。

それは、あなたが営む事業そのものです。その点に違和感をおぼえるとしたら、商売を儲けの手段だと思っているのかもしれません。

商人の価値は、どれだけ儲けたかではなく、商売を通じてどれほど関わる人たちを幸せにしたかで定まります。本業による社会貢献こそが商人の務めなのです。

次に「公正」と「公平」について考えてみましょう。公平とは「判断や言動などがかたよっていないこと」を言い、公正とは公平さが正しいことを指しています。つまり、商売は公正で公平でなければならないし、ひいては公正で公平でなければそれを商売とは呼ばないのです。

新約聖書の「マタイによる福音書」第7章第12節に、次のような教えがあります。「黄金律」と呼ばれているものです。「あなたが他の人からしてもらいたいことは何でも、他の人たちに行いなさい」。

これが公正で公平な社会的活動の基本理念ではないでしょうか。「バイブルにも論語にも商売のやり方は書いていない。だが、商人に一番大切な本が、そのバイブルと論語なのである」とは倉本長治が遺した言葉の一つです。

良い商人とはすなわち善い人間のことであり、善い人間となることが良い商人への近道です。公正で公平な社会活動は、その実践にほかなりません。

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