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お楽しみはこれからだ!

滔々と流れる河の岸辺に立つと、「この河をさかのぼっていくと何があるんだろうか?」といつも思います。どんな大河も一滴の湧水から始まりますが、私はその源流に惹かれるようです。

商業界という河は1948年、倉本長治という男の澄みきった一滴の熱意から始まりました。当時の日本経済は混乱の只中にあり、商業のモラルは地に落ちていたといいます。そのとき、「店は客のためにある」と、お客のための正しい商売のあり方を提唱したのが倉本であり、その道具として誕生したのが雑誌「商業界」でした。
 
しかし、生まれたばかりの小川の流れはか弱く、多くの人たちを潤すことができませんでした。そこで自らの思いを直接伝える手段として倉本は、商人たちが集う“学び場”の開催を呼びかけます。

こうして商業界創刊から3回目の冬、箱根で百余名を集めて始まったのが商業界ゼミナールでした。その意味で、本誌と商業界ゼミナールは同じ親から生まれた兄弟であり、同じ志を共有する友でもあります。

この小さな流れはやがて数千人を巻き込み、日本の商業を導く大河へと成長していきました。ここから日本を代表する商人が排出され、また、たとえ小さくとも心温まる商いに徹する商人が育まれていったのです。

この河の流れ、いえ、そこに浮かんでいた株式会社商業界という舟は沈みました。しかし思想としての商業界という河は今も流れ続けています。そこで伝えるのは、商人にとって商いとはすなわち生きることと同じであり、良き商人とは良き人間のことである――という在り方です。
 
ただ、その水量は衰えつつあります。だからこそ、この河の源流にある“澄みきった一滴の熱意”を取り戻し、そこに立ち返るときだと私は思っています。いえ、思うだけではなく、そのように行動していきます。

たとえば、私が最後に編集した商業界の表紙を飾ってくださった小林久さんの著作『こうして店は潰れた』は商業界倒産によって絶版になるところでした。しかし、さらに内容をアップデート、パワーアップして新刊として生まれ変わらせたいのです。小林さんの決め台詞をお借りするなら「あ楽しみはこれからだ!」なのです。

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