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お客様は神様か?

「これ、おもしろいよ」
そう言われて息子から受け取った一冊のマンガ本。眠る前のひととき、パラパラと読んでみました。

『ニーチェ先生   コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた』は、スリーセブン寺院通り店という架空のコンビニを舞台に、個性豊かなアルバイトたちが繰り広げる、コンビニあるあるネタ満載のコメディです。

原作者であり就職浪人中のアルバイト「松駒」を語り手に、お客に一切迎合しない新人アルバイト「ニーチェ先生」こと仁井智慧、お金にがめつく宝くじが当たることを夢見る先輩アルバイト、売れそうもない商品を大量発注する小太りオーナーらが、コンビニ業務の日常を描いています。

入店早々、「お客様は神様だろうが!」と因縁をつけるお客に向かって、平然と「神は死んだ」とニーチェ先生は返します。もちろんこれは、19世紀、実存主義の代表的な思想家、ニーチェの有名な言葉です。

お客様は神様ですーーといえば、昭和演歌の大御所、故・三波春夫さんの名文句です。よく、前述の因縁客がしたような使われ方をします。

しかし、三波さんの真意は別のところにあったと言われます。「(前略)三波春夫にとっての『お客様』とは、聴衆・オーディエンスのことです。客席にいらっしゃるお客様とステージに立つ演者、という形の中から生まれたフレーズなのです。(中略)このフレーズへの誤解は三波春夫の生前からあり、本来の意味するところについてを、本人がインタビュ ー取材の折などに尋ねられることも多くあり、その折は次のように話しておりました。
『歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払って澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできないと思っております。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです。また、演者にとってお客様を歓ばせるということは絶対条件です。だからお客様は絶対者、神様なのです』(後略)」(三波春夫公式ホームページより)

私も、ニーチェ先生の極論と三波春夫さんの真意に同感です。店を訪れる買物客は絶対者ではありません。彼ら彼女らは、同じ人間として互いに相手を思いやる存在にほかなりません。

商業界草創期の指導者、岡田徹は次のような一文を遺しています。
「あなたの今日の仕事は
たった一人でよい
この店へ買いにきてよかったと
満足してくださるお客さまを
作ることです
あなたの店があるおかげで
一人のお客さまが
人生は愉しいと
知ってくださることです」

コミック1巻の終わりに、松駒と常連男性客との間の人間どうしのあたたかな交流を描いたエピソードがあります。ぜひお読みいただきたいのですが、松駒はこう振り返っています。これが、このコミックに通底する思想です。

「『ありがとう』のひと言は何物にも代え難いのだ」

明日、2巻目を息子に借りてみたいと思いました。

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