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数奇な人生

「人生は複雑とは限らない。求めるものを知っていれば……」

スコット・フィッツジェラルドによる1922年の短編小説を原作に、デヴィッド・フィンチャー監督による2008年の映画「ベンジャミン・バトン」を、出張先のホテルで久しぶりに観ました。冒頭の台詞は、その中で耳に残ったワンフレーズです。

「The Curious Case of Benjamin Button」という原題にあるとおり、老人として生まれて年を重ねるごとに若返る人生を与えられた男の一生を描いた数奇な物語。それまでに何度か映画化が検討されながら、若返っていく主人公を映像として表現することの難しさから、そのたびにお蔵入りしてきました。

物語は、若返っていく主人公と、年老いていく初恋の人デイジーの邂逅と悲恋を主軸に、祝福されない生誕の悲しみ、育ての親の死を受け入れる痛みなど、デイジーが綴り残していたベンジャミンの生涯を、二人の娘であるキャロラインが死に際のベッドにいる母に読み聞かせるというもの。このときキャロラインは初めて父が誰かを知るというストーリーです。

「人は生まれた時と同じように何も持たずに死んでいく」

これも映画の中の台詞ですが、フィンチャー監督は「ならば人生に意味はないのか?」と観る者に問いかけています。その回答は人によりさまざまでしょう。良い答えに最も必要なのは、良い質問です。この一作がまさにそれなのだと感じました。

一瞬、一瞬を、大切に生きていますか?
すべての出逢いを、胸に刻んでいますか?

映画はそう問いかけています。

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