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『こうして店は潰れた』前夜

ある人の導きでお会いした、あるまちのスーパーマーケットの経営者の話です。その商いの有り様、何より人間的魅力に惹かれ、いつかゆっくりお話をうかがいたいと考えていました。衰退する中心市街地だからこその出店、お年寄りが多い地域での移動スーパー導入など、地域社会の食を担う事業姿勢から、多くの市民に愛されている店です。

その店の倒産ニュースに触れたとき、すぐにはその店のことだと理解できない自分がいました。何かの間違えではないか、ほかの店のことではないかと、、、こういう仕事をしていながら事実として受け止めるまでに時間がかかりました。

それからしばらく後、彼からメールをもらいました。事態への対応で心身の疲労は極みだろうに、その文面からは、顔を上げ前をしっかりと向いた表情が浮かんでくるようです。メールは従業員の再就職支援、取引先への対応を最優先すると結ばれていました。

商業界創立者、倉本長治はその著『店主宝典』で次の一文を遺しています。

「希望と勇気のある商人は、明日売るために今日仕入れるように、今日の困難がいつか酒の肴になる日を知っている」

メールを通じた彼とのやりとりの中で送っていただいた、お客さまからの手紙。関わる人に迷惑がかからぬように、消し込みが多いことをご容赦ください。青く消してあるところには、その店の倒産に触れつつ地域に根づき生活者の暮らしを支えてきた小さな店の価値を訴える地元紙のコラムのタイトルが書かれていました。

今度こそ、前を向いて再起に取り組む彼の話をしっかりと聞きたいと願います。今回の困難を酒の肴に。



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