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商店街×アイドル=復活

「いまや私の知恵袋です」と語るのは、東京・墨田区の「下町人情キラキラ橘商店街」事務局長の大和和道さん。40年間にわたり肌着屋を営んできた彼が商店街の事務局長に転身してから10年あまり。バブル期には137を数えた店数が62にまで落ち込んでいく街を守ってきました。

駅から離れ、観光地でもない地域密着商店街の使命を、大和さんは「半径500mにお住いの皆さんの暮らしを支えること」と言います。そのために朝市を立ち上げ、事務局を担ってからは24時間営業スーパー、子育て・介護施設など生活に欠かせない施設の誘致に尽力。さらには大学と協働し、学生の柔軟な発想を商店街に取り入れてきました。

「知恵袋」との出会いは、近くで建設中の東京スカイツリーが日に日に上へと伸びていく頃のこと。時同じくして、ある劇団が墨田区へと活動拠点を移しました。

アラサーアイドル、商店街に現れる!


「まちにあるお店を組み込んだ芝居をして、実際に観客と街歩きをするという企画に協力してくれる人を探していたら、区役所の人に『だったら大和さんだ!』と紹介いただいたのがきっかけでした」

こう語るのは、墨田区を拠点に活動する劇団「シアターキューブリック」の俳優、奥山静香さん。キラキラ橘商店街を舞台に活動を続けるアイドルグループ「帰ってきたキューピッドガールズ」のリーダーである彼女こそ、大和さんの「知恵袋」である。

彼女の提案を聞くと、大和さんは「楽しいことで人を呼んでくれるなら、どんどん街を使ってよ」と即答。区で制定されたばかりの商店街加入促進条例の加入促進大会がちょうどあり、「30分あげるから何かやってみて」と声をかけました。そこで披露されたのが“商店街の看板娘たちが商店街を脅かす悪と戦うアイドルグループを結成する”という「帰ってきたキューピッドガールズ」のもとになるお芝居でした。

演じられた劇は大会で好評を得て、大和さんは「あれをそのまま、商店街でやったら?」と提案します。

……10年前、瞬間的に活躍したアイドルグループが惜しまれながら解散した後、メンバーは故郷である墨田の商店街でごく普通に働いていた。2011年、そんな5人が地元商店街の平和と繁栄のため、墨田の未来のため、アイドルと呼ぶにはちょっと年の行き過ぎた(?)5人組が歌い、踊り、戦います! 足のむくみが治らなくなったら、解散!……

こうした設定で彼女たちはキラキラ橘商店街での活動を開始。ところが、「なんだあれは、いったい何の役に立つんだ?」という声も商店主の一部から上がったそうです。

しかし、大和さんは「必ずお役に立つので、私が責任を取ります」と啖呵を切りました。「店の外を知らない商店主は井の中の蛙。彼女たちの持つ女性、主婦、そして母親としての視点は商店街を元気にするために絶対必要」という確信があったからです。

「遊園地のような街をつくりたい」


「日常を楽しむための演劇で“あそぶ”ことによって楽しんでいただくのが私たちの劇団の個性であり、"遊園地のようなまちづくり"がビジョンです。メンバーは小さい頃に商店街にお世話になった世代で、原風景にはにぎやかだった商店街があります。だから、私たちの演劇が商店街の役に少しでも立てればという思いが出発点です」と彼女たちは、月一回開催される朝市での清掃活動から始めたのです。

以来12年間、多少のメンバーの入れ替わりはあれ、彼女たちは毎週末の商店街のステージで店と店主の魅力を伝え、観劇者との買い歩きを続けています。62にまで減った店数が76まで戻り、さびれていた週末にも来外客が増えてきたことが彼女たちの活動の成果を何よりも物語っています。

2021年には、都内2700の商店街の中から選ばれる「東京商店街グランプリ」を受賞。商店街全体をイベント会場とし、非接触技術を用いてコロナ禍でも楽しめるよう工夫した点が評価されました。これも「知恵袋」たちのアイデアと実践のたまものにほかなりません。

現在は墨田区の商業コーディネーターとしても活躍する奥山さんに、今後のアイドル活動について聞くと、「足のむくみが治るかぎりやります!」。すかさず大和さんから「治ってねえんじゃないか、もう(笑)」と茶々が入ります。そこを愛する人がいるかぎり、商店街は滅びることはありません。


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