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松江、お祭り、現実を忘れるための

早朝の東京駅。みどりの窓口のスタッフが軽快にキーを叩いて時間を調べてくれる。松江までの往復切符は全部で6枚。一度にこんなに切符をもらったのは初めてだ。

島根でSTU48瀬戸7のライブ。直前まで迷ったが、ここで行かないと一生島根には行かない気がしたので、勢いに任せて行くことを決めた。よく言われるように、行かない後悔より行って後悔。

のぞみで岡山まで。岡山で特急やくもに乗り換え。特急は旅情がある。速さ一辺倒の新幹線と違い、特急には旅を共にする乗り物という日常から離れた楽しさがあると思う。特急やくもは中国山地を越える。川に沿って走るやくもの車窓には、清流と深い緑の山々、たまに青々とした田んぼがずっと流れている。それは今までイメージの中でしか存在していなかった日本の田舎の原風景のようで、眺めているだけで夏休み気分が高まっていった。

片道約6時間。松江駅前はスタバもある普通の地方都市という雰囲気だった。遠いが、乗り換えも1回でずっと座っていただけなので、あっけなく着いた感があった。

STU48瀬戸7がライブするのは山陰中央テレビのお祭りのステージ。暑いが川沿いで風が心地良い。

司会によって期待を煽られて始まった瀬戸7のミニライブは、水色とレモン色のストライプ衣装で、去年のTIFスマイルガーデンを思い出させて感傷的になってしまった。セットリストもオリジナル曲が多く、STU濃度高めだったのが良かった。

盛り上がって激しく踊る彼女達を見ているのは最高で、しかしなんだか、踊り続けることで辛いことや悲しいことを忘れようとしているような印象を受けてしまって、夏は始まったばかりなのにもう晩夏のような切なさを感じた。現実逃避したい先からも逃避したいような袋小路。お祭りなんだからすべて忘れたほうがいいのだろうが、彼女達の汗で輝く全力を見ていると、もう少し皆が幸せになれる未来はなかったのかなと考えてしまう。

とはいっても甲斐心愛さんである。最近生まれた諺に「夏の陽より心愛」というのがあるが、これは夏の太陽よりも心愛さんは熱く輝いているというそのままの意味であり、今の心愛さんはいつも沸騰中だ。水が沸騰すると水分子が激しく動くように、この夏の心愛さんは熱く激しい。汗で乱れた前髪さえ愛おしい。ハードスケジュールも苦にしているようでない心愛さんは夏が苦手らしいが、心愛さんは夏に愛されている。

行ってよかったと思う。しかしこう長文を書いてしまうあたり、何か納得出来ていない部分があるのではないかと自問してみると、貧乏性だからか、この日帰り旅行のためにかけたお金に見合うものを見られたのかと、そこで自分を無理矢理にでも納得させているのではないかと思ってしまう。瀬戸内のアイドルは、図らずも自分の醜い欲深さと向き合わせてくれる。

島根滞在約3時間、遠く島根で瀬戸7を見られたことも良かったが、行き帰りの特急やくもに乗りながら、田舎の原風景のような緑をずっと眺めていたのが、これこそ正統の夏休みといった感じで、とても旅情があった。新幹線にはない特急だからこその趣きがあった。特急に乗りながら思い出したのは『砂の器』だ。皆の共通イメージのような昭和の日本の景色が描かれた映画で、島根にはこの映画で有名になった亀嵩という地がある。亀嵩駅は、特急やくもとは路線が違うが、同じく中国山地を越える点が似ているので、なんだか自分も昭和に戻ったような気分にもなった。


今年の夏は毎日何かしらの仕事があって忙しさを極めているSTU48だと思うけど、それが巡り巡っていつの日か優しい気持ちで振り返れるようになれたらいいなと願っている。今年も熱い夏をありがとう。



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