消えていく言葉

先日、こどもたちを隣接している小学校と幼稚園に送っていったとき、たぶん小学校5年か6年ぐらいの女の子が二人で連れ立って歩いているのを見かけた。その歩き方が、なんというのか、人という字の成り立ちのように、お互いの上半身の体重を半ば預けあって、4本の脚は行き所がなくしゃーなしに一応前に出してますけど、とでもいうようなものだった。

私の脇にくっついていた下の子が、そのお姉さんたちの様子を見て、「あのこたち のっそり のっそり あるいてるね」と屈託なく言ったのを聞いて、ああ、素敵!と思った。何がって、言い方が、だ。私が上で5行に渡って描写したのよりも、下の子が言った「のっそり のっそり」という言い方が、その女の子たちにはぴったりだった。

普段幼児と過ごしていると、「その言葉、永久保存したい!」という場面に出くわす。今5歳の下の子がもう少し小さいときには、各種の言い間違いを量産していた。例えば、国民的アニメのキャラクターは「ジャイオン」だったし、百獣の王のことは「ダイオン」、何食べたい?と聞けば「おこのきやみ!」と返ってきたし、歌を歌えば「あかりを つけましょ ぼんぼぼり~」と、まあそんな調子だ。

そういう明らかな言い間違いだけではなく、「普通の言い方とは違うけど、言わんとしていることがめっちゃ伝わる」シリーズというのもあって、例えば、サイズの合っていない長靴に足を突っ込んでは「これ、ぼかぼかや」と言ってみたり、干からびたミミズにたかる蟻を見れば「おじゃおじゃおる」と言ったりする。

それを聞いて、心の内ではあどけなさに悶えてのたうちまわっているのだけど、表面上は努めて冷静に、「そうだね、ちょっとおおきいね~」だの「ほんとだ、いっぱいいるね~」だの返している。これにはちょっとした理由があって、上の子がまだ2歳か3歳のころ、舌ったらずながら初めての単語らしい単語を発したとき、驚きと喜びと愛しさが相まって「うへへーいっ、いま、よーぐるとっていったのぉ~??」とバカ高いテンションでリアクションしてしまったら、当の子は、自分がおかしなことを言って笑われたと捉えたらしく、ただでさえ、もともと完ぺき主義みを備えていた上の子が、次喋るときには笑われまいと、その後しばらく言葉を発さなくなってしまったのだった。

そうえば、上の子がなかなか言葉を話さないことを相談した時に、こどもの言い間違えは指摘せず、でも、正しい言葉を親が後から繰り返して聞かせてあげることが大切です、というアドバイスを受けたことがあった。それでいくと、下の子にも、「うん、長靴ぶかぶかだね」とか、「ありさん、うじゃうじゃいるね」と返した方がいいことになる。

でも、そう返すことで、次からは「ぼかぼか」や「おじゃおじゃ」が聞けなくなるのはさびしい。どうしたって、そのうち消えていってしまう言葉たちを、今のうちにせっせと収集しておこうと思う。

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