第3話「三種の肉のスタミナ丼 前編」
登場人物
カエラ:クロエ砦の女隊長。シエルとは士官学校の同期で気安い仲。好きな食べ物はカレー
アムアム(聖竜パルフェアムール):人と竜を司る女神。異世界を統べる四女神の一柱。好きな食べ物はおはぎ
ジンソク、届いたダンボール(マウンテンバイク)を前に感動で震えている
ジンソク:買った…買ってしまった…!
回想でこれまでのあらすじと自己紹介
俺の名前は手前仁則
自転車を駆って注文の品を届けるごく普通のフードデリバリーだ
変わったところといえば
異世界での出来事を絵でおさらい
たまに異世界に呼び出されるくらい
チップの有用な使いみちを思案するジンソク
でもおかげで奨学金もだいぶ返せたし、少し自己投資というやつをしてみることにしたわけだ
箱にほっぺすりすり
ジンソク:買ってしまった…マウンテンバイク!
もろもろ込みで40万円ちょい
人生最大の買い物だ
しかし残りの金もなくなっているのはなぜだろう
やはり異世界からの金、時間が経つと魔法で消えてしまうのかもしれない
スマホのガチャ履歴をチラ見して見なかったことにする
…悩んでる間にガチャを回しまくった痕跡はあるが、それはそれ
魔法ということにしておく
ジンソク:今日の配達はお前とだ、エベレスト号!
ジンソク、めっちゃ浮かれてる
ジンソク:
山から注文とか来ないかなー!
来ないかーハッハッハ!
場面転換。異世界へ
山。急峻なガチの岩山を騎士たちが行軍中
フレイ:隊長!クロエ砦より伝令!
敵からの攻撃が始まり籠城中とのこと!
シエル:遅かった…!
あの首脳会談から始まった反攻作戦
レーメンを奪還する戦いは人族有利で進んでいたが
魔王軍は要衝・クロエ砦を狙う作戦に出た
ここを落とされれば戦況はまた逆転してしまう
増援として私たちが送られたが一手遅かったようだ
フレイ:もう間に合いません!
一度撤退して反撃の備えをしましょう!
シエル:…いいえ
シエル:一度占拠された城を奪い返すのは至難です
多くの犠牲を伴うでしょう
シエル:何より
今戦っている者たちを見捨てることはできません
フレイ:隊長…
シエル、旗を掲げて自軍を鼓舞する
シエル:ここからは強行軍です!
休まず走り、砦の守備隊と我々とで敵を挟撃します!
シエル:ついてこられない者は置いていきます!
よいな!?
騎士たち:はっ!
シエル:目標、クロエ砦!!
場面転換。クロエ砦へ
山肌に建てられた砦は難攻不落だが、魔物に包囲されて攻め立てられている
クロエ砦では劣勢の中で守備兵たちががんばっている
兵士:石だ!もっと石を持ってこい!
兵士:おい、しっかりしろ!
兵士:かあちゃーーーーん!!
守備隊長のカエラは猛将。傷を負いながらも必死に指揮をとっている
兵士:カエラ隊長!敵がどんどん増えています!
カエラ:見りゃ分かる!口じゃなくて手を動かせ!
カエラ:必ず増援は来る!
必ずだ!
カエラ:くそ、なんだこの敵の攻撃は!
速度といい精度といい、まるでこちらの手の内が全て知られているみたいな…!
カエラ:だが負けねえぞ!この砦は難攻不落!
増援が来るまではなんとしても…え?
飛竜:ガアアアアア!
兵士たち:ひ、飛竜だ!!
ワイバーンだああああ!!
カエラ:バカな!強烈な山風でここへは飛んで来られないはず!
兵士:隊長、あれを!
魔王軍、飛竜を載せて山を登るための運搬器具を使っている
カエラ:奴ら、あんなものまで…!
兵士:隊長、飛竜への備えなんてありません!
カエラ:分かっている!
カエラ:それでも守るのが私らの役目!
ありったけの弩を出せ!
カエラ:発射!
だが飛び回る飛竜に矢は当たらない
飛竜が攻撃をしかけてくる
兵士:隊長危ない!!
飛竜の体当たりがカエラのいた辺りを直撃
ドォン
兵士:隊長!隊長ーーー!!
カエラ:ピーピー騒ぐな!こんなとこでくたばるかってんだ!
だが…
雑兵たち:もうダメだ!
雑兵たち:増援なんて来ねえよ!
帰ったに決まってる!
カエラ:来ないのか、増援は…!
私らは見捨てられたのか…!?
カエラ:答えろ、シエル!!
飛んできたメイスが飛竜に直撃し、撃墜する
飛竜:グギャッ
兵士:た、隊長!今のは一体!?
カエラ:メイスで飛竜を撃墜?
んなフザケた芸当ができる奴は一人に決まってんだろ
シエル:呼びましたか、カエラ
カエラ:おせぇよ、シエル!!
シエルの後ろには息切れした騎士たち
フレイ:隊長、脱落した騎士は半分ほど!
ついてこられた者も疲労困憊です!
シエル:では、休んでいますか?
疲れていても意気軒昂
フレイ:御冗談を!
騎士たち:応!!
砦側も意気を上げる
カエラ:総員、白兵戦装備!
打って出るぞ!
兵士たち:おおおお!!
シエル、戦闘に必要ない荷物を置いて剣を抜く
シエル:全軍、突撃!!
時間経過
シエルたちの勝利。魔物たちは逃げていく
カエラ:ハァ、ハァ…
フレイ:魔物たちが逃げていく…
シエル、崖の近くにいる。全軍に勝利を宣言
シエル:我々の勝利です!
勝鬨を!
オオオオオ!
カエラ:追撃戦だ!
…といきてぇが
シエル:もう日が落ちます
この山道では危険の方が大きいでしょう
カエラ:チッ、暴れたりねえ
完全勝利。だが最初にシエルが撃墜した飛竜が息を吹き返す
飛竜:グ…
飛竜、シエルを見つけて連れ去ろうとする
飛竜:ガアアアア!
カエラ:シエル!
シエル:その手は…
シエル、第1話の反省を活かして空中連れ去りを回避
シエル:もう食いません!
が、足元の崖が崩れる
ガコッ
シエル、崖下の川へ落下(ここからはコメディタッチに寄せていく)
シエル:うそおおおおおお!!
フレイ:隊長ーーーー!!
カエラ:なーに、シエルのことだ
これぐらいでくたばりゃしねえよ
カエラ:あいつの強さは士官学校時代から人間離れしてたもんだ
自力で這い上がってくるさ
兵士:本当に人間なんですか…?
カエラ:そのぶん食欲も化け物並だったけどな!
腹ペコだとヘロヘロなんだあいつは、ハハハ!
フレイ:そ、それが…
フレイ:この強行軍で丸一日ほとんど食事を摂っておらず
カエラ:え、じゃあ
カエラ、危機だと気づいてシエルの落ちた崖を見下ろす
フレイ:ベッコベコにご空腹かと
カエラ:…なんてこった
川に落ちたシエル、なんとか岸に手をかける
ガシッ
シエル:ぷはっ!
シエル、岸によじ登ったところで倒れる
シエル:お腹、すいた…
シエル:ふ、ふふ…しかし私に抜かりはありません…
シエル:
最近発見したアーティファクトの新機能!
その名も『時刻指定』!
戦闘の終わりそうな時間に届くように注文済み!
アーティファクトがない。突撃時に置いてきた荷物の中だと気づく
シエル:…あっ
扉が現れるのはアーティファクトの力
→ジンソクはここには来ない
シエル涙目
シエル:うそおおおお!!
時間経過。もうすぐ日が暮れそう
フレイ:なぜ隊長の救助に向かわないのですか!
日が落ちてしまう!
カエラ:暗くなれば滑落に道迷い、魔物の残党の危険だってある
夜の山を舐めるなよ
カエラ:
シエルだってバカじゃねえ
無闇には動かないはずだ。明朝に探せばきっと見つかる
フレイ:
しかし食料もないのに…
そうだ、崖から食料をありったけ落としましょう!どれかは隊長に届くはずです!
カエラ:
兵たちに食わせるだけでも足りないくらいだ。無駄にはできねえ
フレイ:
さっきからそうやって…
隊長が心配ではないのですか!?
カエラ:
心配に決まってんだろうが!!
カエラ:
シエルとは同期なんだぞ…!
フレイ:
…すみません
カエラが真剣に話しているところに、テーブルの上からジンソク登場
カエラ:
今はあいつを信じ「こんにちはー、出前城でーす」
カエラ:
うおおお!?
フレイ:
貴様は…!
ジンソク:
って会議中!?また!?
ジンソク:
すみません、シエルさんに渡したらすぐ帰るんで
フレイ:
…隊長ならいない
時間経過。ジンソク、事情を聞く
ジンソク:
そんな…
シエルさん、大怪我とかしてないといいけど…
カエラ:
そりゃ平気だろ。シエルだぞ
フレイ:
崖から落ちた程度で怪我などしません
ジンソク:
あ、シエルさんってこっちでも常識外れなんですね
ジンソク、シエルの異様な腕力や食欲を思い返す
てっきり異世界人はあれが普通なのかと思っていたら違うらしい
フレイ:
ただ空腹にだけはめっぽう弱いのだ
そこを魔物にでも襲われたら…
ジンソク:
食べ物が届きさえすればシエルさんは助かるんですね?
カエラ:
できるのか?
俺にはマウンテンバイクがある
急峻な山道を走破できるだけのスペックは備わっている
だが日没までは一時間もないだろう
魔物もいる中、無事に届けられる確証なんかない
ジンソク:
それでも放ってはおけません
俺に行かせてください
少し時間経過。ジンソク、マウンテンバイクを持ってきて出発準備完了
カエラ:
本来なら私らが行くべきなのに、すまねえ…
ジンソク:
気にしないでください
これが俺の仕事です
フレイ:
貴様…いや、ジンソク
隊長を助けてくれ。頼む
ジンソク:
全力を尽くします
ジンソク、山と崖下に目を向ける。いかにも恐ろしく危険そうだが、迷っている時間などない
覚悟を決める
ジンソク:
では、行きます!
走り出すジンソク。だがいきなり目の前に扉が現れ、勢いそのまま飛び込んでしまう
ジンソク:
へ?
うおおおおおお!?
フレイ:
ど、どこへ行く貴様ーーー!?
ジンソク、落下してくるがマウンテンバイクをうまく操ってまっすぐ着地
ジンソク:
膝をバネのように使って着地ッ!!
そこはピンク色にモヤのかかった不思議な空間
ジンソク:
ここは…?
女神アムアムの声がする
アムアム:
ようこそ、女神の間へ
そこに現れる聖竜パルフェアムール。竜の姿と人の姿があり、これは竜の姿。初めての竜にジンソクも驚く
ジンソク:
ぬおおおお!?
ドゥラゴォン!?
アムアム:
私はアムアム
またの名を聖竜パルフェアムール
アムアム:
人と竜とを統べる神です
続く
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