新宿駅で立ち止まったはなし

先日、東京に行った。
新宿駅の改札階に降りた瞬間、右とも左ともつかない方向から声がきこえた。

愛にできることはまだあるかい
僕にできることはまだあるかい

君がくれた勇気だから
君のために使いたいんだ
君と分け合った愛だから
君とじゃなきゃ意味がないんだ

愛にできることはまだあるかい
僕にできることはまだあるかい

あんまりはっきり聞こえたから、私は雑踏のなかで思わず立ち止まった。
けれども、新宿駅の人たちは変わらず動いていた。
動き続ける液体のような集団の中で、私だけが外れざるを得なくなって、ひとり、固体になっていた。

この歌声、私にしか聞こえていないのかな。
私のために歌っているのかな。

あとから知ったけれど、その日は新海誠監督の最新作、映画「天気の子」の公開初日だった。
もしも映画館に観に行ったら、きっとクライマックスで、あの日の新宿駅の雑踏を思い出すだろう。
私だけに聞こえた、あの歌声。

「愛にできることはまだあるかい?」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?