「メタルの入り口」としてのアルバム5選
100枚は多くない?
星海社(講談社の子会社)から、こんな新書が出た。
ふむ、「メタルの基本」がこの100枚でわかる!、とな…。
メタルファンとしては読まない訳にはいかないでしょ。
という事で早速購入、そしてパラパラ読み始めると、本編前の「はじめに」の中で気になる記述が。
「メタルに興味を持っているけれど、どのアルバムから聴いてよいのかがよくわからない人は、是非この本に掲載されている100枚から手に取って欲しい。この100枚さえ聞けば柔軟なメタル脳を持った立派なメタルヘッズに変貌だ」
いやいや、ちょっと待ってほしい。
100枚は多くない?
「メタル初心者が100枚聴く」って、それこそその100枚のどれから聴いていいか分からないだろうし、そもそも相当な労力でしょ。
「アルバム1枚の再生時間=10曲×5分=50分」だとして、100枚聴くには「50分×100枚=5000分(約83時間)」というとてつもない時間が掛かるよね。
つまり、正直言ってこの本は「初心者のための本」としては適していない。
「重度のメタルファンが過去の名作のレビューを読んで楽しむための本」だと思う(そういう趣旨も「はじめに」に書いてあったし、自分は十分楽しめた)。
まぁ、書籍として発行する以上ある程度の量が求められ、その結果として「100枚」となってしまっているのは、仕方がないというか必然ではある。
つまり、初心者に向けてごく少数だけ紹介するためには、書籍じゃ無ければいい訳だ。
という事で、メタルファン歴15年、iTunesの曲数約10000というそこそこ(?)メタルに詳しい自分が、メタルの入り口としておススメする5枚のアルバムを、そしてその中でも特におススメの1曲を紹介したい。
BLACK SABBATH(ブラック・サバス)-「Master Of Reality」
「メタルの始祖」ブラック・サバスの3rdアルバム。
https://open.spotify.com/album/3kBG6q0aXKxzn01wKTwZr5?si=3q-XY9z1T8SBCc79IdsVnQ
「メタルはどこから始まったか?」という問いに対して、ブラック・サバスがメジャーデビューした1970年を挙げるメタルファンは多いと思うし、間違いなく1つの正解ではあると思う。
そんな始祖たるブラック・サバスがそのスタイルを確立させた、その独特の重さが病みつきになる名盤、「Master Of Reality」をまずおススメしたい。
トニー・アイオミが紡ぎ出すシンプルながらヘヴィでインパクトのあるギターリフ(繰り返しのフレーズ)、そしてオジー・オズボーンのオカルティックな歌唱は、従来の「ハードロック」とは一線を画し、これこそがヘヴィメタルの雛形だと自分は思っている。
シンプルが故の説得力と凄みが、間違いなくそこにはある。
おススメの曲は、4曲目"Children of the Grave"と、8曲目"Into the Void"。
特に"Children of the Grave"はメタル史上に燦然と輝く名曲なので、メタルに興味があるなら必聴である。
※1997年、オリジナルメンバーでの再結成ライブ。
デビューから30年近く経ってもこの迫力、そして観客の熱狂。
もしブラック・サバスが気に入ったなら、次に聴くべきは…
・「重さ」を追求したドゥーム・メタルバンド、Candlemass(キャンドルマス)
・もしかしたら最も直系の後継バンドかもしれない和製バンド、人間椅子(にんげんいす)
・オジー・オズボーンのヴォーカルが気に入ったなら、オジー・オズボーンのソロ活動
この辺りがいいと思う。
JUDAS PRIEST(ジューダス・プリースト)-「Defenders of the Faith」
「メタル・ゴッド」ことジューダス・プリーストの9thアルバム。
https://open.spotify.com/album/3o0mPpetAFCOIFkUaw1egl?si=H8vwxpuBTW21XjecCDjlgg
先ほどのブラック・サバスがメタルを生み出した存在だとしたら、このジューダス・プリーストは1980年前後にメタルのスタイルを音楽的にもヴィジュアル的にも確立させた存在である。
そのため、「メタルはどこから始まったか?」という問いに対する2つ目の答えとして、1980年を挙げる人も多い。
グレン・ティプトンとK・K・ダウニングという2人のギタリストが織りなす激しいながら美しいハーモニー、聴く者の心を揺さぶる大仰でドラマティックな旋律、そして何よりロブ・ハルフォードの喉から放たれる圧倒的なハイトーンは、他の追随を許さない「神の声」として後続のバンドに絶大な影響を与えている。
今日においても、メタル・ヴォーカルの一つの(そして大きな)方向性としてハイトーン・ヴォーカルは確固たる存在感を有し、そしてその頂点は未だにロブ・ハルフォードなのだ。
そんな「メタルゴッド」にはもちろんいくつも名盤があるが、今回は「Defenders of the Faith」をチョイス。
捨て曲無しの超絶名盤だけど、特に序盤の4曲、1曲目"Freewheel Burning"、2曲目"Jawbreaker"、3曲目"Rock Hard Ride Free"、4曲目"The Sentinel"の流れは圧巻の一言。
どれもロブ・ハルフォードの神懸かり的な声が存分に堪能できる曲であり、個人的には特に"The Sentinel"が超お気に入り。
※1986年、全盛期のキレッキレのライブ映像。
終盤のサビでは、ロブ・ハルフォードが原曲以上の超絶ハイトーンを連発!
ジューダス・プリーストをカッコいいと思えたなら…
・同じくメタルのスタイル確立における最重要バンド(こっちを紹介するか少し迷ったぐらい)であるIRON MAIDEN(アイアン・メイデン)
・ロブ・ハルフォードのようなハイトーンが特徴のPRIMAL FEAR(プライマル・フィア)
・硬派なサウンドと美しいギターの旋律を両立させたACCEPT(アクセプト)
この辺りの「正統派メタル」も気に入るはず。
METTALLICA(メタリカ)-「Master of Puppets」
メタルの枠を飛び越えた「現代メタルのシンボル」、メタリカの3rdアルバム。
https://open.spotify.com/album/2Lq2qX3hYhiuPckC8Flj21?si=pkPvn8qHRJ2t7TTp4gaW7w
前述のジューダス・プリーストやアイアン・メイデンが中心となって確立されたメタルのスタイル(正統派メタル)を、「より速く」「より激しく」進化させて生まれたメタルジャンルである「スラッシュ・メタル」。
そのスラッシュ・メタルの最大の担い手であると同時に、メタルと言う枠を超えた認知度と実績を誇るモンスター・バンドがメタリカだ。
全世界でのアルバム売上は1億枚以上、1990年代の北米におけるライブの観客動員数1位など、その実績はメタルバンドとしては規格外というかジャンルを問わず世界有数の成功を収めたバンドであり、数字的には最も成功を収めたメタルバンドである。
その激しく刻んでいくギターワーク、魂を揺さぶるような攻撃的な歌唱、そして攻撃性を際立たせる洗練されたメロディは、頂点を極めるに相応しい貫禄を放っている。
彼らもまた名盤が多いバンドでどれを紹介するか迷うが…、彼らの魅力がバランスよく凝縮された名盤、「Master of Puppets」を紹介したい。
もちろん名曲揃いの1枚だけど、1曲目の"Battery"と2曲目の"Master of Puppets"はもはや至高の領域と言っていいほどの出来栄え。
個人的には特に"Master of Puppets"のカッコよさ、何度聴いても痺れてしまう。
※2009年のライブ映像。
未だ衰えぬその激しさと攻撃性は、まさにモンスター・バンドである。
メタリカの放つ「荒々しさ・激しさ・攻撃性」こそメタルのカッコよさだと思えたなら…
・メタリカのライバルとでもいうべき存在、計算しつくされた旋律と技巧が魅力のMEGADETH(メガデス)
・荒々しさを煮詰めて凝縮させたようなスタイルで頂点に立ったSLAYER(スレイヤー)
・邪悪でありつつ美しさも携えるドイツの重鎮KREATOR(クリエイター)
この辺りのスラッシュメタルを聴くしかない!
HELLOWEEN(ハロウィン)-「Keeper Of The Seven Keys Part 2」
日本で絶大な人気を誇る「パワーメタルのオリジネイター」、ハロウィンの3rdアルバム。
https://open.spotify.com/album/0C00ibrtAGw59osJUg5qOO?si=ord74nxLQqWd6C_gsCotyQ
前述のように1980年頃に確立された正統派メタルのスタイルを、「より速く」「メロディをより一層美しく」という方向に先鋭化させていったメタルジャンルである「パワーメタル」。
日本では「メロディック・スピードメタル(メロスピ)」「メロディック・パワーメタル(メロパワ)」とも呼ばれ絶大な人気を誇るこのジャンル、その生みの親がハロウィンである。
既存のメタルにあった「荒々しい」「激しい」といったイメージは影を潜め、「明朗」で「美しい」メロディを大きな特徴として、そしてそこに乗るマイケル・キスクの伸びやかなハイトーンボーカル。
その独特のマジックが与えてくれる高揚感は多くの人々を虜にして、特に日本では絶大な人気となっただけでなく、世界各地で多くのフォロワーが生まれ、パワーメタルという一大ジャンルが確立されるに至った。
その分かりやすい魅力は初心者の入り口としてはピッタリだと思うし、それでいて決して「浅い」訳では無く、その音にはしっかりとメタルのエッセンスが流れている。
そんなハロウィンからおススメするのは、1987年に発売された"Keeper Of The Seven Keys Part 2"。
2曲目の"Eagle Fly Free"は唯一無二の高揚感を与えてくれるパワーメタルの金字塔であり、そして8曲目の"I Want Out"はライブで大合唱となって最高に盛り上がる一曲。
※脱退していた1987当時のボーカリストとギタリストが復帰し、新旧メンバーが集っての2018年のライブ映像(スキンヘッドのボーカルがマイケル・キスク)。
世界最大のメタルフェスである"Wacken Open Air"のトリとして、観客を熱狂の渦に巻き込む圧巻のパフォーマンス!
ちなみに、現在もそのまま「新旧合同メンバー」で活動中である。
もしパワーメタルの魅力に取りつかれたのなら…
・そのスタイルをさらに純化させた正当後継者とでも言うべきバンドであるSTRATOVARIUS(ストラトヴァリウス)
・クラシック音楽や民族音楽の要素も取り込んだブラジルの技巧派集団ANGRA(アングラ)
・美しい旋律を携えつつ、少しダークな雰囲気で孤高の世界観を醸し出すKAMELOT(キャメロット)
このような様々なタイプのパワーメタルに触れて、自分のお気に入りを見つけよう!
SLIPKNOT(スリップノット)-「SLIPKNOT」
怒りと狂気を爆発させる「恐怖の仮面集団」、Slipknotの1stアルバム。
https://open.spotify.com/album/2dL9Q5AtIv4Rw1L6lKcIUc?si=1IzPViHCTqqaILr_6OKbQQ
1980年代のメタルブームが去り「冬の時代」を迎えていたメタルシーンに、突如としてカリスマが出現した。
1999年、仮面とツナギを身に纏った9人組、Slipknotがデビュー。
その危険な雰囲気しかしない出で立ちに違わず、彼らが発する音は「怒り」や「狂気」の体現であり、昔ながらのメタルのエッセンスを感じさせながらも前衛的で革新的であり、そしてなによりとてつもなくカッコいい。
「ボーカル1人・ギター2人・ベース1人・ドラム1人・パーカッション2人・サンプラー1人・ターンテーブル1人」という前代未聞の組み合わせが生み出す全てを圧倒するような音圧と楽曲、コリィ・テイラーの感情を全身全霊でぶつけるような咆哮、そして破壊的なライブパフォーマンス。
その全てが刺激的で、独創的で、衝撃的で…、とにかく既存のバンドとは次元の違う危険な魅力を放っていた。
メタルという「感情を爆発させる音楽」のある意味極地とでも言うべきような高みに、デビューした瞬間から君臨したのだ。
全体のバランスがいい2ndアルバムを紹介しようかとも思ったけど、今回は衝撃度を重視してセルフタイトルである1stアルバム"Slipknot"を紹介。
1曲目"(Sic)"、2曲目"Eyeless"、3曲目"Wait And Bleed"、4曲目"Surfacing"と、開幕の4曲はただただ衝撃。
特に、"(Sic)は「ヤバい」としか言いようがない。
※2009年、まだオリジナルメンバーが全員揃っていた頃、最も「危険」だった頃のライブ映像。
その衝撃的なパフォーマンスに、ただひれ伏すのみである。
過激さや感情の爆発が生み出すカタルシスに心を動かされたのなら…
・ベクトルは違うも、こちらも「怒り」や「狂気」の体現者であるMarilyn Manson(マリリン・マンソン)
・ドイツが産んだ異端児、何でもありな度肝を抜くパフォーマンスを見せるRAMMSTEIN(ラムシュタイン)
・超絶技巧とヤンチャな遊び心の融合、それでいて激情の音を発するDESTRAGE(デストレイジ)
この辺りの既存の枠にとらわれないバンドを気に入るかも。
メタルの沼に潜ってみないかい?
以上、自分の思う「メタルの基本」であり「メタルの入り口として相応しいアルバム」を5つ紹介したけど、楽しんでもらえたでしょうか?
そして、グッとくるようなアルバムや曲は見つかったでしょうか?
もしこれをきっかけに「メタルをもっと聴いてみたい!」と思っていただけたら、本当に嬉しいなぁ。
一度ハマったら抜け出せないかもしれない深淵な世界に、是非とも潜っていってほしい。
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