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フェルディナンド1世(Bust mare)とその収集のポイント

 個人的に一番好きなルーマニア切手は、1920年から1923年頃まで使用された普通切手・フェルディナンド1世(Bust mare)です。ラージ・ヘッドなどと呼ばれるフェルディナンド1世の肖像をデザインにした切手で、第一次世界大戦後に登場した統一図案の切手です。

 切手の仲間内で、「ルーマニア切手のどんなところが面白いのですか?」「自分もルーマニア切手を集めてみたいのですが、どんなふうに集めたらよいですか?」と聞かれることも多いので、自分の関心についてまとめたいと思います。
 いきなり専門的な話も出てきますが、ここさえ乗り切れば、切手の専門収集のイメージがついてくることでしょう。

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上は郵便はがき用に発行された10Bani切手の試し刷り

1920年当時のルーマニアの郵便事情

・ブカレストの政府印刷局で、凸版印刷によって製造されました。切手の印刷方式は凹版、凸版、平版に大別することができます。時代によって大きく異なりますが、印刷のきめ細かさでいえば、「凹版>凸版>平版」の順であることだけ押さえておきましょう。よく凹版が一番手の込んだ印刷方法のように言われることもありますが、実際の凸版印刷の過程も複雑なものがあり、一概にはいえません。
・切手カタログによっては1919年から発行されたことになっていますが、私自身まだ1919年の消印をみたことがないので、実際に使用開始されたのは、1920年だと思っています。個々の切手の発行日や使用開始日はよくわかっていません。
・切手の額面はLeu(レウ)で、複数形がLei(レイ)です。ライオン(獅子)から来ている言葉で、隣国のブルガリアのレフという額面を使っています。補助単位はBan(バン)で、複数形がBani(バニ)です。EUに加盟したルーマニアでは将来的にユーロを使うことになっていますが、今もなおルーマニア・レウを使用しています。

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上は1921年発行の1Leu切手の4枚ブロック

切手の種類と色の区別について

・全部で12種類あります。2Leiの額面の切手に「オレンジ・青・ローズ」と3色あるのは、インフレの時期だったこともあり、頻繁に郵便料金が改正されたことが影響しています。
・一般に、切手分類の中でもっとも大切な要素は色調といわれます。同じ10Baniの切手であっても、印刷時期によって色の具合が微妙に異なることがあります。こうした微妙な色合いの違いを精査していくことで、同一の切手であっても、その切手の使用期間の中で「初期・中期・後期」などのように細かく時期が特定できる場合もあります。しかしフェルディナンド1世の切手は一部の額面を除いて「時期と色」を特定することまでは成功していません。
*外国宛てはがきは赤色、外国宛書状は青色などのように、国際的に切手の色には国際ルールがあります。例外もありますが、当時のルーマニアはこの国際ルールをわりと忠実に守っていました。

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1921年に外国宛書状のために発行された2Lei Blueの10枚ブロック

切手用紙の分類

 フェルディナンド1世の切手に限っていえば、色や額面に次いで重要な分類軸として一般に採用されるのが、切手用紙による分類です。フェルディナンドの場合は大きく灰紙(粗紙)と白紙の2つのグループに分けられます。また、白紙の中には、クリーム色がかった紙(Yellowish Paper)や着色繊維入りの白紙(Fiber Paper)があります。

 このうち、もっとも珍しいのは、着色繊維入りの白紙で、一部の額面については絶望的に入手の難しいものもあります。灰紙には厚みのあるもの、繊維状の不純物が紙に漉き込まれているものもありますが、これは一般的に着色繊維入りの白紙ではありません。

切手の目打分類

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上は、10Bani切手とその目打(ギザギザ)の細かさ・粗さを示す数字

・切手のギザギザのことを目打と呼びます。2cmのあいだにあるギザギザの間隔のことを専門用語でピッチと呼び、その目の粗さ・細かさを区別して収集します。ギザギザの間隔は目打ゲージと呼ばれる専用のモノサシを使います。
・左の切手は縦・横ともに、2cmのあいだに、11.5の感覚で目打があることを表しています。右は横が13.5、縦が11.5と異なるピッチの目打ということになります。
・フェルディナンド1世(Bust mare)には、13,5(A)、11.5(B)、11.5-13.5(C)、13.5-11.5(D)、13.5-14(K)の5種の目打があります。「A,B,C,D,K」という目打の分類は、ルーマニア切手収集上の慣例であり、国際的に通用するルールではありません。もっとも珍しい目打は(C)で、他の目打の切手の10倍以上の価値があります。ありふれているのは、(A)と(K)です。

目打を観察するための知恵

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上に示す10Bani切手は縦・横ともに、13.5の目打になっている

・ルーマニアに特有の現象なのですが、耳紙(切手の余白部分)がありません。シートは200枚を一度に印刷して、100枚を1シートにして郵便局へ納品されたのですが、その際に切手用紙の余白部分を除いて納品していました。目打を観察するには耳紙があったほうが好適なのですが、ルーマニア切手には基本的に耳紙がありません。
・そこで当時の収集家は目打のギザギザを観察しやすいように、ルーマニア切手を4枚1組(2×2)のつながった状態(4枚ブロック)で集めました。この記事の冒頭には、フェルディナンド1世が4枚ブロックの形状になっているものを紹介していますが、1920年頃から目打にこだわって収集していた人がたくさんいた名残といえます。

もっとも珍しい切手

 切手を集めていると、やはり世俗的な関心はついてまわるもので、「フェルディナンド1世(Bust mare)の中で、どれが一番高い切手なんだ?」といった話題になります。

2Lei Rose
色と額面に組み合わせでいえば、2Lei Roseがもっとも少ない切手です。1922年とBust mareの中でもっとも遅い発行で、すぐに次の普通切手であるBust micに切り替わったため、絶対数が少なく、発行当時の切手が封筒などに郵便物として貼られたものは貴重です。

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1Leu Green灰紙
未使用の入手困難さでいえば、1Leu Greenの灰紙でしょう。品質の低い灰紙の多くは低額面切手に多く使用されたため、高額面切手に使用されたものはとても少なく、中でも未使用切手の入手はかなり困難です。

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25Bani Blue 着色繊維入り白紙
やや専門的な品物ですが、1Leu Greenの灰紙の未使用を大きく超える入手難度なのは、25Bani Blueの着色繊維入りの白紙です。未使用・使用済ともに絶対数が少なく、15年間でようやく数枚を探し出したのみです。最初の1枚を入手するのに、10年ほどかかりました。

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もっともありふれた切手

一番多いのは、1920年に発行され、郵便はがきなどの用途に使用された10Bani Redがもっとも現存数が多いでしょう。未使用の数でいえば、1920年の1Ban Blackがもっとも入手しやすい切手になりますが、この切手の使用済はあまり多くないので、意識していないとなかなか集まりません。

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1Ban Black。誤って目打を縦に2回ずつ入れてしまった一種のエラー切手

この切手の概略は以上になります。これから個々の切手についてもっと詳しくお伝えしていきたいと思います。

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