読書録:河村暁『教室の中のワーキングメモリ』
河村暁『教室の中のワーキングメモリ 弱さのある子に配慮した支援』(明治図書出版株式会社,2021)を読んだ。
概要
何かの目的のために必要な情報を一時的に覚えておく記憶の働きをワーキングメモリという。
学校や社会はワーキングメモリに弱さのない人を前提として作られているため、ワーキングメモリに弱さがあると学習や社会生活に困難が生じる。
この本ではワーキングメモリを強くすることをメインターゲットにするのではなく、今その人にあるの特性のままで短所を補償し、長所を活用する適応的アプローチに基づいて記述されている。
「メモそのものが難しい」
学校の先生や保護者向けの本だと思うけれど、ワーキングメモリが弱点の自分のQOLを上げる助けになるかもしれないと思って読んだ。
「メモが難しいことを理解する」という章があった。
忘れっぽいというとメモを取れと言われがちだが、
ワーキングメモリに弱さのある人ではメモそのものが難しい場合があります。
と記されていた。
これだけでも私にとってこの本を読む価値があった。メモを取ろうと思ってメモ帳を出し、ペンを用意したところで肝心の書きたいことがどこかに行っていることがある私の魂がだいぶ救われた。
メモは強力な外部記憶装置ですが、適切に運用するにはワーキングメモリの働きが必要です。
確かにそうだ、これからは詰められたらそう答えることにしよう。なんでメモ取らないの、とか言われて言い返せない自分とさよならだ。開き直りと言わば言え。
解決策としては、メモ以外の方法、PCやスマホのアプリや機能を活用していくことが挙げられていた。確かにメモ帳とペン、二つの道具を出すよりも、スマホを開く方がすぐできるだろう。
ワーキングメモリの働きを妨げるもの
ワーキングメモリはその時の状況によってパフォーマンスが変わるという。
例えば、気にかかることがある、落ち込んだ気持ち、大きな不安などの情動があると、それがワーキングメモリの一部を占めてしまい、他の情報を処理するリソースを取ってしまうという。
負の影響を及ぼすものとして以下のようなものが挙げられている。
睡眠不足や疲労
刺激が多い状況
馴染みのない新しい場面、情報
学習していることと同じ種類の情報
このようなものは本来取り組むべき課題と、不安や疲労、刺激が同時にワーキングメモリを使おうとしているマルチタスク事態である。このような場合はシングルタスクになるよう工夫するとよい。
できない人は責めてもできるようにならない
なんでできないの、と責めても人は何かできるようにならない。上のことからわかるように、責められて罪悪感や恐怖などを感じながら遂行すべき課題をしているのなら、すでにマルチタスク、負荷になっていることがわかる。
子供と対している時に、思わず口をついてでがちなフレーズだが、多分百害あって一利なしの言葉なので、これは封印することにする。
そうじゃないパターンを考える(責めたらできるようになった)のは、自分の採用しているアドラー心理学の観点からも無しということにする。多分それはサバイバーバイアスというやつだと思う。
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