目を奪われちゃってしょうがないもの

 この間、街の古楽器屋さんにふらっと寄ったときに見かけたものに心を奪われてしまっている。とにかく気になる。夢にまで出てくる。

 その名は「クロマトーン」

 鍵盤楽器。形は概ねキーボードだが、鍵盤があるはずのところに丸いボタンが配置されている。タイプライターのようになっている。

 長方形の鍵盤が左右に広がっている、と思っているところに丸いキートップが縦横に揃っていることの衝撃と言ったらない。キーは白一色。そこにあるはずのデジタルな白鍵黒鍵の並びの代わりに、いきなり有機的な物が居座っているように見えて、ファーストインプレッションは「なんか気持ち悪い」であった。何かの骨格のようにも思えた。

 あまりの衝撃にぼんやりと店を出て、楽器の名前を忘れて、また別の日に名前を確認しに行ってしまったくらいである。

 タイプライターのように、と言ったが、全部のボタンに別の音階が設定されているわけではない。縦にそろった列のボタンはどれを押しても同じ音が鳴るそうだ。というわけで縦の列は焼き鳥が並んでいるような感じなのか。あるいは串団子。
 クロマトーンの考え方では、白鍵と黒鍵を区別しないらしい。隣のキーは全音、斜め隣のキーは半音違うという。このキー配列と、音階の考え方のために、これまでの鍵盤楽器とは違った演奏が楽しめるそうだ。

 といっても、私は鍵盤の並び方を白鍵と黒鍵の並びで覚えてしまっているし、手もそういうつもりで覚えている。そして音階はドレミファソラシドだと思っている。そこに違うルールを採用することは結構難しそうだ。ミとファの間は半音差って、いちいち思い出すのは大変である。違う音階の数え方で、これまでの譜面を読むとどういうことになるんだろう。

 と思ったけど、演奏動画を見たらそんなの吹っ飛んだ。楽しそう。鍵盤の高さが同じなので「次の音が黒鍵で運指がつらい」みたいなこともなさそうだ。新しい考えを導入するより、道具の動きにしたがってしまったほうがいいだろう。

 というわけで、気になる新しいツールは、さっさと使って慣れちゃうのがいいと思った。しかしキーボードを相談も無しにいきなりお家に連れて帰るのは気が引ける。なんといっても先月から長男が「ふつうの」ピアノを習い始めてしまったのだ。ハノンとかやってる隣でクロマトーンで遊び始めたら、絶対こっちに来てしまうだろう。

 肝心のクロマトーンはもう販売終了してしまったらしい。あの古楽器屋さんにいつまで置いてあるだろうか。

 

 

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