カヌー殺人事件

 5月15日の朝、ハワイアンカフェ「IZ」のアルバイト、井上が店に入ると、店長の中野がカヌーの中で頭から血を流して死んでいた。
 中野はすぐに通報し、警察による現場検証か行われた。バックヤードから血のついたオールが発見されるに至って殺人であることは間違いがないと考えられた。
 関係者は店の共同経営者の児島、アルバイトの井上、阿部、上田、坂本である。学生の時からカヌーを操り、そして後の捜査で中野と人間関係のもつれがあり、かつ第一発見者である井上が容疑者となった。

「でもさ、オールで人は殺せないよね。私、前に店長オールで殴ろうとしたけどさあ」
「阿部ちゃんマジ発言気をつけた方がいいよ」
「だっていのっちの訳ないもん。なんかおかしいよ。不倫してたからって殺す? 殺す価値ないじゃん?」
「だから、阿部ちゃん」
「坂本くん、どう?」
「店長てカヌーに入ってお酒飲むんですよね。で、その場で殺された、と。オール持ってきたら見えそうですけどね」
「酔っ払って寝てたんじゃない?」
「寝てたら頭は殴れません」
「賢い!」
「阿部ちゃんも坂本くんもやめなよ」
「上田さんはどう思います?」
「私はどうも思わない。殺すのは酷いことだし、殺されるのはかわいそう」
「あれでも?」
「あれでも」
「一番酷いじゃないですか!」
「でもね、その日、いのっちは確かに夜に店に来てる。でも、その後に来た人がいるんじゃないかって思う」
「どうして?」
「金庫開いてたんだよね。店長、バイトの前では開けないじゃない。いのっちも番号知らないし」
「と言うことは…?」

 逮捕されたのは児島だった。経営方針の違いから言い合いになり、カッとなって殺した。しかし、凶器はオールではなく店のオーナメントのトーテムポールだった。罪をなすりつけるためにオールに傷口をつけたのである。

「わー、いのっち、かわいそうだったね」
「あれに惚れたのが悪いよ」
「上田さんが一番酷いですって」

canoe/カヌー

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