煙の行方、川の流れ

 仕事もお金も無くなってしまって、今いる所に住んでいられなくなったから、友達が借りている四畳半のアパートに入れてもらった。友達は街に出る時の寝泊まりのためだけにそこを借りていた。大家のお婆さんを騙すような形で家賃を15,000円にさせたらしい。
 朝、コンビニでタバコを買って、部屋に帰って一本ずつ時間をかけて吸う。煙が立ち上るのを目で追いながら一箱吸い切ると、辺りが暗くなっているから、寝る。
 二週間ほどそれを繰り返して、さすがに良くないと思ったから、外に出ることにした。
 コンビニから家には帰らずに近所の橋の上でタバコを吸いながら煙が立ち上るのと川の流れとを見る。朝から晩まで外にいるから健康的だ。
 ある日、通りがかった人に、草刈りをしませんか? と誘われたから、することにした。この川は小さいから護岸のコンクリに草が生えても行政が来なくて、と言いながら、手際よく草を刈る。
 ある日、その人が来なかったから、橋の上でタバコを吸っていたら、わらわらと警察が集まってきてパトカーに入れられた。聞くと、その人は家で薬物を作っていたという。護岸の草の中にもそんなものがあったらしい。
 共犯になった方が楽かな、と思ったが、部屋から何も出てこなかったし、誘われたから着いて行ったりしたらいけないと諭されて、帰ってきた。
 部屋の中でまたタバコを吸った。払っていない家賃の元を取った気になった。

ethic/倫理 

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