輝く地球の中から外へ
「それじゃ外しまーす」
「はーい」
結び目を外すと風船がすーっと上がっていく。
「いいねいいね」
広い荒野にぽつんと佇んでいるギルは動かずにじっと風船の行く方を見ている。ギルと風船との距離はどんどん離れていく。風船は一度上がると帰ってこない、取り返しがつかない。その、首の後ろから冷たい手を入れられているような感覚を、ゲイリーは毎日求めるようになっていた。目眩がしてくらくらする足元がなくなる感覚だ。
1,000、2,000、3,000m。もう、双眼鏡を着けないと見えない。6,000、7,000、7,500m。風船の上がり方がゆっくりになっていく。昨日より早い気がした。望遠鏡に着け替える。8,000、8,150、8,300m。そして、9,257mで、割れるのが見えた。
「9257!」
「9257」
ゲイリーの側に戻って来ていたギルがノートに記した。
「昨日とほぼ同じですね」
「そうですか、ありがとう」
ギルはノートを閉じた。
「帰りますか?」
「そうですね」
ゲイリーはそう言いながら自分のノートに観測結果を書き込んだ。横から覗いていたギルの顔が曇った。
「…破裂じゃなくて、溶けてますか?」
ゲイリーもノートを閉じた。
「溶けてます」
2人は空を見上げた。
「後、どのくらいで…」
「まあ、1年でしょう。あそこの温度が来る頃には人間には耐えられなくなっているんだから」
「そうですね」
ギルは溜息をついた。
「さあさ、帰りましょう。できることなんか無いんですから」
2人は歩き始めた。ギルは宇宙服の中でじっとり汗をかいていた。暑さだけではない、いつ言おういつ言おうというのがぐるぐると頭の中を駆け巡るのが自律神経に悪いに違いなかった。
「あの…」
「明日からは私だけでも良いですよ」
思っていたことを先に言われてギルは立ち止まってしまった。
「いいんですか?」
「耐えられないんでしょ? 人類が滅亡するまでを毎日観測するのが」
「そう、はっきり言われると…」
「ま、でも、そういうこじゃないですか」
「ゲイリーさんは平気なんですか?」
「することがある方が暇つぶしになるんでね。明日からは風船の結び目を自分で解くとなると、わくわくします」
「はあ…」
やはりこの人はどこか変に違いない。と、ゲイリーは急に立ち止まってギルの目を見据えた。
「ギルさんもすることないなら来ておいた方がいいです。何せ、暇してるのは良くないですよ」
untie/解く
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