藁にもすがる

 あいつに死んで欲しい。でもあたしが殺すなんてとんでもない。
 だから呪い殺してもらうことにした。
「やめておかれた方が…」
 陰陽師の人が最初に言ったのはそれだった。
「なんでですか」
「「人を呪わば穴二つ」というのをご存知ですか?」
「知りません。あたしはあいつに死んで欲しいんです。あいつは私の家族を壊しました。あいつは私のお金を取りました。あいつは私を…」
「わかりました、わかりました。しかし、そこまで恨みがあるのなら、なぜご自分でされないのですか?」
「そんな恐ろしいことはできません」
「そうですか…」
 あたしは呪い殺されるあいつが本当に惨めに死ぬようにして欲しいと言った。そうしたら、陰陽師の人が藁人形であいつを呪い殺しますと言った。でも、自分で藁を集めなければいけませんと言われた。
 しかも溺れた人が掴んでいた藁じゃないといけないと言われた。
「怨念がこもっていればこもっているほど良いのです」
 あいつが死ぬためのことはなんでもする。だからあたしはその日から毎朝海に出て藁を拾った。
 どうやって溺れた人が掴んでいた藁を見つけたらいいか聞いたら、触れば怨念が感じられると言われた。海岸に落ちてる藁を触ってみるとどの藁も怨念がこもっていた。それを集めても集めても足りないけど集めて集めた。
 集めた藁を持って、陰陽師の人に会いに行った。
「集めて来ました」
「え!? 2週間で!?」
「はい」
「おや、まあ、そうでしたか…。では、こちらはお預かりしておきます」
「あいつは死にますね?」
「今から術をしますから、待っていただかなくてはなりません」
「いつ死にますか?」
「…急ぎますか?」
「急ぎます」
「では、2週間後に」
 2週間後に陰陽師の人のところに行くと、藁人形に五寸釘が刺さっていた。
「死にましたか?」
「死にました」
「どうやって?」
「呪い殺しました」
「ううん、どんなふうに惨めに?」
「聞きませんでしたか?」
「どうして?」
「とにかく、これからは、海には近づかないようにしてください」
「本当に殺したんですか?」
「…海に行けばわかります」
 海辺に来ると藁を探してしまう。今日はたくさん落ちている。無意識に藁を拾って集めていたけれどもうあいつは死んだから拾わなくていい。捨てようとしたら拾った藁が指から取れない。手を振り回しても取れない。どんどんくっついてくる気がする。洗えば取れると思って海に手をつけたら何かに掴まれて

straw/藁

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