今の心臓事情

 ありとあらゆる戦士がこの女神に心臓を捧げてきた。勝利を祈願し、牛馬や人、時には自身を生贄としてきた。血生臭い祈りを捧げられる女神の呼び名は歴史以前から現代まで様々変われど、女神そのものの存在は変わらない。
「人の心臓は?」
「今日はございません」
「そうなの。じゃあ、牛?」
「はい」
「牛ももう慣れてきた」
「さようでございますか」
「今の人の心臓を食べるよりマシかも知れない、パサパサしてないから。もっと血潮に満ちた、プリプリの、引き裂くと血が溢れ出るような、そういうのばかりだったのだけれど、今は、ちっちゃくて萎びた、まずそうなのばかり」
「おっしゃる通りです」
「もっと人間同士が殺し合えば、まともな心臓も出てくると思う?」
「そうでございましょう」
「お前はそういうように人を仕向けられはしないの?」
「残念ながら」
「つまらない。お前もいつかは人の心臓を食べたらいいよ」
 女神は牛の心臓を一口で飲み込んだ。
「仕方ない、こいつには勝たせてあげようか」

mealy/パサパサの

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