カルピスと雪

「兄ちゃん」
 弟がこそっと呼んできたから、一緒に廊下に出た。ガラス戸の向こうの庭には雪が降り続いていて、その冷たさが廊下を満たしている。寒い。
「カルピス…」
「うん…」
 山形に父方の親戚が住んでいるので、何年かに一回は来ている。その度にとても歓迎してくれるのだけれど、何しろ、人が近い。いつの間にか人が集まって来て、うわっと言うほどの料理が並び、大人はお酒を飲む。今回は初めてカルピスが子供には出た。
「あれ、飲めない」
「うん、あれは、割るんだよ」
「割る?」
「水で薄めるんだよ。それか、炭酸で。知らないの?」
「知らない」
 でも、水や炭酸を頼む雰囲気でもない。大人たちはワイワイしているし、父はあちらに取られているし、母は嫌がって来ていない。子供2人でどうにかするしか無い。
「…雪は?」
「…へ?」
「雪、入れたら良いんじゃない? 冷たいし」
 カルピスはぬるかった。
「入れてみようか」
「どうする?」
 ガラス戸は少し開けようとするだけでギシギシすごい音がするし、割ってしまうんじゃないかと思ってひやひやする。それでも、どうにか腕を伸ばせるだけは開けた。庭木に積もっている雪を少し取ってみる。口に入れると本当に冷たい。その後に手がジンジンしてくる。
 弟も同じようにして雪を口に入れて変な顔をした。それが面白い。でも、大人たちに聞こえたくない、けど笑ってしまう。もう一回掬って取って食べてわざと変な顔をした。
 弟が吹き出した。それに釣られて笑ってしまった。
「こら、何してるの、まあ、寒いのに」
 おばさんが出て来た。途端に、何をすれば良いのか、わからなくなってしまった。
「まあ雪が珍しいからなんだろうけど、こっちじゃなんにも珍しいことないんだから、中に入りなさい。カルピスも全然飲んでないじゃないの」
「あの、カルピス…」
「なんだ、ビールの方がいいのか」
 ガハハハと大人たちが笑った。

cider/サイダー


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