輝く地球

「カズ、もうちょい右手下げて」
「はいはい」
「はい、せーの!」
 ゆっくりと、8本の手がブロックを下ろしていく。こちらで持っているカナメの姿は見えても、向こうの2人は30m先にいるからどうなっているかいまいちわからない。
 ブロックがモルタルに乗るグニュっという感覚が宇宙服越しに伝わる。
「はーい!」
 今回も、正確に、ブロックはつながった。初めての面子とはいえ、全員がプロだった。カンは満足だった。
「じゃあ、休憩にしましょう」
 はい、わかりました、了解です、と3人の声ががヘルメットの中で聞こえた。カズとカナメは通信を切ったが、カヤは接続されたままになっている。
「カンさん、お疲れ様です」
 ブロックにカヤは腰掛けている。宇宙空間なのだから腰掛けようと浮いていようと変わりはないはずなのだが、どうしても何かとくっついていたいという気持ちが出るものだ。カンはそのまま浮いていた。休めるだけ休まないといけない。「カンさん、話しても、いいですか?」
「うん?」
「カンさんて、地球にいたこと、あるんですか?」
 カンは苦笑した。この質問をされるのは何度目だろう。
「いたと言っても、ガキの頃だよ」
「そうなんですね」
 カンもカヤも、地球を眺めた。真っ赤に焼け爛れて歪み、今にも大気という薄皮から中身が弾け出そうになっている。
 それが弾け出るのを防ぐために、地球を覆う石棺をカンたちは作っている。500年の大工事だ。
「俺の知ってる地球は緑じゃないよ」
 カンは先回りして答えた。カヤは黙っていた。
「子どもだったからな、当時は」
 カンは気まずくなり、つい、呟いた。宇宙で暮らす苦しみは俺の、俺らのせいではない、でも、という引け目が常にあった。カンは通信を切ろうとした。
「あの…」
「うん?」
 地球が緑だったなんて今は誰も信じてはいないと言いかけて、カヤはやめた。あんなところ、放っておいて、もっと広い宇宙に出ていったらいいのに。

grout/タイルの隙間をモルタルで埋める

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?