最後の日を包み込む

「今度は何?」
「…ちょっと待ってね」
 まあ、よくもそんなにポケットに入っているものだ。財布、携帯、鍵、ハンカチ、ティッシュ、薬が入っている小さなポシェット、メンソレータム(メンソレータム?)、カロリーメイト。
「何がないの?」
「傘袋」
 式が終わるくらいの時間に雨が降るのは予報が出ていたので、誰もが折り畳み傘を持っている。秋山君も片手に傘をぶら下げている。
「傘袋、すぐ無くなるよね」
「秋山さん、本木さん、おめでとうございます」
 笹沼君、白木さん、棚橋さんが来てくれた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「…秋山さん、どうしたんですか?」
「傘袋無くしたんだって」
「卒業式の日も絶好調じゃないですか」
「そうだなあ…。傘袋、すぐ無くなるよね」
「秋山さん手袋も同じこと言ってましたよね?」
「うん、手袋も、すぐ、無くなる。…まあ、でも、いいか。せっかく来てくれたんだし、探してたら時間もったいない」
「これ、お花です」
「ありがとう!」
 白木さんが花束を私にまずくれて、秋山君にもくれようとしたけれど、一瞬、躊躇した。
「秋山さんこれ以上物渡したらわかんなくなりますよね?」
「いや、花は無くさないよ」
「え? だって網棚に小道具一式忘れた人ですよ?」
「あれは悪かった、本当に」
「まあ、とりあえず」
「ありがとう」
「佐倉さんたちは?」
「佐倉さんあっちにいるんじゃない。兼部してたし」
「ちょっと探して来ます」
 棚橋さんがふらっと離れていった。
「新歓公演どうなってるの?」
「今は大道具作ってるところです」
「階段は部室の扉出る?」
「それは本木さんじゃないですか」
「秋山君一生それ言うよね」
「部室かな? 傘袋」
「部室行ったの?」
「うん、最後に、ね」
「でも、朝は降ってなかったですよ」
「いや、降ってたよ」
「いつすか」
「佐倉さんたちいました」
 棚橋さんがみんなを連れて来た。
「写真撮りましょう」
「部室行かない?」
「後でね」

glove/グローブ

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