短冊職人

「これは数ですから。数が大事なんですから」
 そう言いながら古賀太一さんは歩みを止めずに商店街の中を進んでいく。もはや走っている、いや、飛んでいると言っても良いかも知れない。私たちはついていくのがやっとだ。
「ここです」
 目的のスーパーに到着した。古賀さんはサッと店の中に入っていく。
「あ、お待ちしていました」
 スーパーの奥からマネージャーが駆け寄ってきた。手には短冊とペントを持っている。
「こちらに、お願いします」
「はいはい、わかりました」
 古賀さんは目を瞑って少し頭を上げて考え始めた。前の店と全く同じ格好である。あれだけの速度で動いていたのに、息を全く切らしていない。この年齢では驚異的なことだと思う。
「それは、鍛えているからです」
 古賀さんは歩きながら答えてくれた。
「七夕はどの店にとっても重要な日、お客さんが短冊に願いを書くために立ち寄ってくれる日です。それをどうにかして良くしてあげたい。そういう思いがあるから苦になりません」
 さて、古賀さんが鍛えているのは体だけではない。脳も鍛えている。今、みんなが古賀さんが何を書くかを固唾を飲んで待っている。その期待に応えるためには、日々、願い、もしくは「うまいこと」を集めておかなければいけないし、考えておかなければならないという。
 古賀さんがマジックを動かしてサラサラと短冊に書き、それをフロアマネージャーに渡した。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
 フロアマネージャーはそれを押しいただき、奥に入ったかと思うと、ラミネートして持ってきた。
「何が書いてあるんですか?」
「ご覧になりますか?」
 私たちがそれを見ると「風よ! 吹くな」とあった。
「七夕の日には外に笹を出すんです。だから、こう書いていただけるのは本当にありがたくて」
「要は、観察です。日々これ観察。そうして書いてほしいことを見つけていくわけです」
 今日も古賀さんは歩いていく。

windy/風が強い

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