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過積載は見れば分かる。車体の位置が明らかに低くなっているからだ。いろいろなケースに触れているからほぼ間違いなく摘発できるが、それでも、今日は目を疑った。明らかに過積載のタンクローリーがいたからだ。荷台に積み上げるだけ積み上げて、というのなら分かるが、容積が決まっているものが過積載になることがよくわからない。 しかし、過積載は過積載である。 高速の脇に一旦停めさせた。トラックの窓が開いて不安そうな顔がのぞいた。 「過積載だと思うから、今から、降りて計らせてもらうから、着い
新しく砂漠の中にできた街は、古代の遺跡の佇まいに目配せをしながらも、実際に歩いてみればまさしく未来であることのわかる作りであった。 一番に目を引くのは道幅が100mもあろうかというメインストリートで、その両側にら水路が流れ、さらに木が整然と並んでいる。その木々は全く人工的に開発されたもので、見た目や質感は本当の木と全く変わらないものの、姿を変えることはなく、しかし光合成は行うというもので、何百年経っても姿が変わらないように作られたのである。 3kmはあろうかというこの通
もう全く思いつかない。締切は明日の13時である。後10時間。まだ焦るような時間ではないのかも知れないが、ここまで出てこないのはちょっと思い出せない。いや、あったのかも知れないが、忘れているか、もう頭の中がパンクしていてわからなくなっているのだろう。こうなったら最後の手段だ。 3時間仮眠を取る。その際に、いつもはかけている夢を見ないようにするフィルターを外し、夢を見る。見た夢を使って書くことにしよう。最後の手段を使うしかない。いつもは自分の見た夢に脅かされないように幾つも
切り株の前でぼんやりしていたら碌でもない感じになってしまったので、仕方がないから、また野良稼ぎをすることにした。 何しろ、働くのがめんどくさいから切り株の前でぼんやり待っていたわけで、働かなくてはいけないとなってもできるだけ働きたくない。どうしたらいいだろうというのを考えた。 必死に考えて思いついたのが、何しろ待つことにかけては右に出る者がいないから、待つことで実りが得られることにしようということである。石の上にも三年であり、桃栗三年柿八年なのだから、待つことにしよう
大門をくぐると、もはや夜四つを過ぎたせいであろうか、思ったより歩いている者はおらず、血の跡がまだ点々と雪の上に残っていた。茶屋から漏れ出てくる灯りに照らされると、その跡ははっきりと光るような気がした。それに続く足跡をおっていくと、「石合」と書かれた提灯のかかる茶屋の前に出た。 「ごめん」 「あら、ちょっとお待ちを」 行こうとするところをぐっと引き寄せた。 「騒ぐな、医者だ。ここに撃たれた者がいる、命に関わると言うので呼ばれてきた。案内しろ」 おかみの顔が引き攣ったが「こ
「すいません、すいません」 目の前に2名の警官がいた。 「すいません、ちょっと、その本、よろしいですか?」 「え、あ、これですか?」 「ちょっと確認させてくださいね」 車内の視線がこちらに注がれていることがわかる、冷や汗が出る。何をしただろう。 一人が本を調べ始めると、もう一人がメモを取り出した。 「お名前は?」 「村西幸洋です」 「古風なお名前ですね。ご職業は?」 「会社員です。あの、何か、まずいことが…」「いえ、今、紙の本を読んでらっしゃる方、珍しいですから。読まれ
私が思い出す父はいつでも毎日毎日駆けずり回って働いている。ただ、思い出の中で父がしている仕事は色々で、もはや本当にその仕事をしていたのかわからなくなってしまっているようなのまである。 早くから学校を「落っこちた」父は、自分の身は自分で養う、ということに強い信念を持っていた。その割に、仕事そのものはどれも長続きしなかった。どうしようもなくなると、好きでない土方の仕事に出て行ったが、ある程度なんとかなりそうになるとそれを辞めてしまい、思いついた新しい何かを始めるのだった。
逮捕、監禁、拷問。 薄々、そういうことになるだろうと勘付いてはいたが、実際にそうなると、辛い。実際に辛いというのは実際に辛いということを言うんだよ。 と言うわけで、毎日、監獄の廊下を歩かされている。奥のあの部屋に行くのは嫌だが仕方がない。重い足を引きずっていく。 「はい、こんにちは」 こちらを見る目はどれも虚だ。また、仕方がない。これから起こることを考えたら、私の目だって虚になる。 「じゃあ、準備をしますので、待っていてください」 簡単なブースを作ってその中に収ま
父がしていたのは空き家の調査だった。それは、不動産屋さんから頼まれて空き家に行き、その家がまだどのように使えてどこは傷んでいてというのを見て回る仕事だった。若い頃に齧った大工仕事のおかげでどれがどうということは、あの人にしてはちゃんとわかっていたらしい。しかし、それができるから空き家の調査に入るわけではなく、空き家に入りたいからそういう仕事を編み出したと言っても良いのかも知れない。 父は空き家に入ると全ての場所を開けて中を覗く。それは「宝探し」が目的だった。ある家族が出
通学路にいた魔法使いは、ワインレッドのガウンに青と白の縞のパジャマを着たお腹の突き出たおじさんで、毎朝、玄関先に立ち、ぼんやりとあらぬ方を向いてたばこを吸っていた。都内でそんな感じで通学路にいたとしてもまだ怒られないで済んだくらいの頃だったけれど、近寄りがたくはあったので、小学生はみなおじさんとは反対側の道を歩いていた。その雰囲気のせいに違いない、おじさんは魔法使いであるということになっていた。 噂ではおじさんの家の中には死体が転がっており、扉を開けて家に入るところをた
「こんにちは。おばあちゃん、起きてる?」 「いや、まだ寝てる」 「もう10時なんだから起こしてあげないと」 「まあ、そんなに慌てなくても」 「入りますよ。…もう、だから言ったのに」 「何が?」 「何がって、おばあちゃんのこと。前に来た時から起こさなかったでしょう?」 「そうかな」 「そうかな、じゃないの。日に一回は起こしてあげないともっと調子悪くなるんだから」 「でも、起こしたら、起こしたで、ね。足も悪いし」 「それだけじゃないのよ。…ほら、やっぱり一週間前だ。起こしますよ」
長い廊下をうんざりしながら歩いている。どの扉が正解なのかまだわからない。受付で受け取ってもらえなかったのは運ぶのがめんどいからだというのがよくわかった。もう二度と来ないぞ、ここには。 雪の日だからむしろオーダー入るんじゃないかと思って店の前で待っていたら、確かにじゃんじゃん来る。こちらはスキーで運ぶから捌けてほくほくだったが、ここの中に入ったからそれが止まってしまった。うざい。 節電のためか蛍光灯は切られている。空気が循環していなくて生ぬるい。遠くの掃除機の音はいつまで
「アヤさ、うさぎ、消えかかってない? すごい筋入ってるし」 「まあ、機械の調子悪いし」 「そのサイズのだったら新しいの安いし、買ったらいいよ」 「いや、まあ、もう少し我慢してからにする」 「ちょっと不安になるよ、それ、頭の後ろにあると。なんか、ハロみたいだし」 まあ、ハロみたいな位置に投射しているので、それは間違いない。 自分の身に纏わせるデジタルデータは機械の種類によって相当変わってくる。 私の持っているのは足元や肩に何かつけられるもので、実際には更に課金しないといろ
どんな生き物でも小さければ可愛い、というのは限度のある話しで、視認が不可能となると、そんなに魅力的には思われない、ということがあるのではないだろうか。 それが巨人族の場合には多く起こるのであって、例えば、人間界にいるハリネズミなどはもう全く見えない、顕微鏡で見てみたとしてもただトゲトゲしているだけの何か、であるから、可愛いとは全く思われてはいなかった。まあ、仕方がない、見えないのだから。 それに憤然となったのがハリネズミ業界で、どうにかしなければというので大いに努力し