待ちぼうけ
切り株の前でぼんやりしていたら碌でもない感じになってしまったので、仕方がないから、また野良稼ぎをすることにした。
何しろ、働くのがめんどくさいから切り株の前でぼんやり待っていたわけで、働かなくてはいけないとなってもできるだけ働きたくない。どうしたらいいだろうというのを考えた。
必死に考えて思いついたのが、何しろ待つことにかけては右に出る者がいないから、待つことで実りが得られることにしようということである。石の上にも三年であり、桃栗三年柿八年なのだから、待つことにしよう。折角なら柿を育てよう、というので、柿の実を山から取ってきて、種を畑に埋めてみた。
八年も待っていたら流石に乾涸びてしまうから、野良稼ぎに戻るしかない。嫌な気持ちになりながら黍を植えた。しばらくして柿の芽が出たので、早く育て早く育て育たないと芽をちょんぎるぞと思いながら毎日水をやる。その周りに黍畑ができて刈り入れて、そうしてもまだひょろひょろな木のままである。
このまままた黍を作る時期になったら腹が立つかな、と思ったが、そうでもなかった。やはり待つことには向いているのに違いない。それなら、切り株の前で待っていても良かったような気がする。そうだ、柿が実るようになったら、柿を食べ食べ、また切り株の前で待つことにしよう。そのために今は働く。
あっという間に八年が経ち、甘い柿がたわわに実った。しめしめと思いながら柿を取っていると、いつの間にか、周りに兎が数えきれないほどいる。目を擦ってもまだいる。待ち過ぎて気が変になったのかと思ったら、その中の一匹が進み出で口を開いた。
「お前だな、曾曾曾曾曾曾曾祖父さんを殺したのは」
「なんだ、お前たちは」
「俺たちは曾曾曾曾曾曾曾祖父さんの曾曾曾孫から曾曾曾曾曾曾曾孫だ。お前が切り株を放っておくから曾曾曾曾曾曾曾祖父さんはそれにぶつかって死んだんだ。仇を取らせてもらう」
「お前たちは八年間待っていたのか」
「そうだ。人間から仇を取るにはこれだけの兎が必要なのだ」
「これは感心だ。俺と同じくらい待つのに耐えられるやつがいるとはなあ。お前たちには柿をやろう。お前たちの数くらいはあるだろう」
「え、いいんですか」
刈り入れの終わった畑に座り込んで兎と柿を食べる。なんとも不思議な気分だが、これのために柿がなるのを待っていたような気になってきた。
riper/より実る
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