見出し画像

菅波先生のこと。

「NHKのドラマは、基本的に専門家のアドバイスが各方面からあるので、ある部分、安心して見ていられるところがあるなぁ。」

「菅波先生の坂口健太郎くん、エエ味ですね。」

「ちょっと突き放した冷たい感じも、彼の持ち味ともマッチしていて、で、理系の人らしい空気もうまく出てるね。」

「実際、好評みたいですね。」

「そうじゃろうな。」

「気象予報士って、あんなに基礎的な物理から始めないといけないですかね?」

「いや、彼自身も言っているように、はじめは、彼は、モネちゃんに気象の底にある、基本的な素朴な疑問(:なぜ、風が吹くのか? なぜ、雲はできるのか?など)に物理の基礎からの答えを講義していただけじゃよな。」

「ああ、資格を取りたいなら、全く違う勉強が必要だと言っていましたね。」

「そうそう、資格試験は”傾向と対策”。しかし物事の基礎は、そういうこととは無関係にあるものがある、ってことじゃな。」

「実際、最初の数回は、ホワイトボードに書かれていたことは、

断熱膨張

気体の状態方程式

遠心力

コリオリの力

飽和水蒸気量

などといった普通の大学の理系の学部なら、どこでも二年生くらいまでに学ぶいわゆる”教養の講義”の内容でしたね。」

「それを多少、気象の基本に振って、教えていたんじゃろうなぁ?」

「しかし、資格の勉強となると、もう少し、現実的に点数を取るための勉強が要るから・・・。」

「ま、本題と外れるからだろうけど、一気に飛ばされたね。」

「必要としない人には、それは、あまり必要ないし、つまらないですよね。」

「そうじゃな。資格というのは、そういうつまんないことも我慢して覚えた人に対して与えられる称号的な意味もあるからね。」

「で、本題ですが・・・。」

「”おかえりモネ”っていうタイトルが象徴的なんだと思うけど、3.11を具体的に地元のみんなと体験していないモネは、地元に居場所がないって常に感じている。」

「妹との関係が、記号的にそれを暗示していますよね。」

「自分から島を出たのも、そういうことが無意識に効いているんじゃと思う。」

「うまいですね、蒔田彩珠も清原伽耶も。」

「朝ドラらしい、軽いノリの話が続く中にも、重いテーマがちょこちょこと顔を出すしかけになっているよね。」

「何かの存在ではなく、何かの不在が、自己の過去の不在からきていて、それが常に彼女をわけのわからない不安に陥れている。」

「何がやりたいかわからない!って初期の彼女の言動は良くある、フワフワした自分探しみたいなことではなく、その不在からくる不安を埋めてくれるための”何か”がわからないっていう不安じゃよな。」

「これは、物語をつないでいくしか書きようがないですね。」

「そうなんじゃ、こういうところこそ、文学の出番であって、300字以内で要約すると、その中の大切なものがすっぽりと抜け落ちる類の真理じゃな。」

「清原伽耶、頑張っていると思いますね。」

「この話は、最後まで見ないと何も言えないという部分が中心にある。」

「初回から、ゆっくり丁寧に語られてきていますもんね。」

「製作陣、俳優陣の気合は感じるね。」

「しかし、近頃の大学の”教養軽視””人文学軽視”に対しても、一石を投じる内容を軽く、投げ込んできてくれていたな。」

「そうじゃな、坂口くんが演じている菅波先生は、医者じゃが、この程度の物理なら、適切なレビューできて当然というところをさらっとな。」

「古典力学、熱力学の初歩ですが、気象の基礎にこういった物理があり、それは物理学を専門にしていなくても、当然、このくらいは理解しているっていうのが”学士教育”ではあるからなぁ。」

「そうなんじゃよ。この程度のことをさらっとできての学士号じゃよ。専門学校との違いはこういうところにある。」

「菅波も、ミクロに行きすぎて、専門的になりすぎるところは、さらっと躱している。」

「こういうところ、『そんなことも知らないんですか?』とか、『めんどくさいから、とにかく覚えろ!』と言わないことが大切なんじゃよ。」

「めんどくさいではなく、かなり複雑で、説明が難しくなり、実は、本当に難しいところってことを隠さないで、真摯に話すところが、映像でもでていましたね。」

「菅波先生の、教養の程度と深度が測られるシーンだけど、坂口くん、上手くやってましたね。」

「指導の大学教授さんと、かなりちゃんと打ち合わせしているんじゃろうな。」

「理解の程度が深かったと思う。坂口くんの役者としての深さでもあるね。」

「いい俳優さんですね。」

「今後の展開にも、ますます、興味が出てきますね。」

「ああ、清原伽耶、こっからじゃよ、君は。」

「御意」



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?