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小説(自キャラ:鬼辻大祐)

鬼辻大祐…鬼辻組組長の息子。ヤクザ。組長の後継ぎをかけた争いにより、実兄を殺す。そのため組内は分裂気味であり、信頼や功績を作ることで認めてもらおうとしている。

※暴力的、不適切な表現が含まれます。
※他の創作者様の組のお名前お借りしております。



「おい、ここ開けてくれよ。じゃないと近隣迷惑だろ」
「相模開けんかボケ!!」
「てめえブチ殺されてえか!」
 部下はかつて水色だったであろう日焼けした塗装が上っ面についた鉄ドアをどすのきいた声をあげながら蹴りつけては、塗装がパラパラと剥がれ落ちた。隣の白痴と思えるジジイがこれまたお揃いのオンボロドアから顔を出すが、俺のような顔の斜めにざっくりと刀疵が入るような人間を見るといなやとっととドアを閉めた。向かいの歯の無い禿げ散らした男も障られんためかカーテンを閉める。全く、どいつもこいつもタマ無し野郎だ。
「鬼辻の兄ィ、こいつ完全になめ腐ってやがる」
 部下の一人が銃を取り出して、ドアノブごと壊していいか目で聞いてくるので、俺は顎でドアノブを指す。
 こんな闇金の返済請求なんぞにわざわざ俺が出向かなくてもいいんだろうけどな。第一、こんなオンボロアパートに住んでる時点でしょっぱい金しか取れねえだろう。ここに住んでいる奴らは犯罪を犯し人の道から外れた野郎どもだ。日向の元では生きれず、ここで一生びくびくしながら暮らしていくのだろう。俺のような極道者としてはそんな恥に塗れた生き様なんざ虫唾が走る。悪人にも悪人なりの美学ってもんがある。こいつらにはそれがねえなんて死んでいるも同然だ。
 部下が三発ほど銃弾を撃ち込むと、ドアが開いたので部下は雪崩れこむように入り、俺はその後をずかずかと革靴のまま上がり込む。完全に日和った相模は部屋の隅に縮こまって蹴られ叩きつけられのやりたい放題なサンドバックと化していた。
「おい、そのへんにしてやれ。こいつから取れるもんまで痛めたら良くねえからよ」
 俺は居間の中央にある木製テーブルめがけて真上からドスを刺し立て座る。
「おう相模、てめえの為にこっちから顔出してんだ。本来あんたから来るべきなんだけど、ここ半年近くの付き合いになるからな、そのくらいの無礼は許してやるよ」
 場は静まり、ただ小太りの相模の豚のようなぜえぜえと息をする音だけが部屋にあった。
「まあ、お互い話し合おう。俺は平和主義なんだ。...おい、ボケッとしてんじゃねえ!茶くらい出せや!」
 相模は着ているグレーのスウェットに顔面の血か涙か分からん体液をボトボトと落としながら、肉を揺らしては震える手で茶を作る。
 壁のあちこちはひび割れが見えるし、やたら薄そうだ。部屋には物がこれと言って無い。これでは豚箱と変わらぬではないか。
「ど、どどど、ど、どうぞ」
 相模はガチャガチャと盆にのせた茶を運び、俺に差し出す。
「悪いなあ。相模。ほら座れ。あんたも苦労してんだろ?ん?最近どうだ」
 相模は俺の質問には答えず、ただ肩に力を入れて数回頷くだけだった。俺はこいつの近状なんざ興味は無い。茶を一口飲んでから構わず続ける。
「俺はよ、組長の跡をかけて実の兄貴を殺したもんでちょっと組がゴタついてんのよ。だからあんたみたいなのにもわざわざ出向いて功績づくりに必死なんだ。金が物言うからな、全くあんたのその金への執着も分かってんだぜ」
 俺は自虐的に笑って見せる。その声量を増すごとに、相模の口角も上に上がり、目は全く笑ってはいないが小さく笑い声をあげた。俺は湯飲みを握ってその口元から見える歯に向かって叩きつける。
「ああああああっっつっ.....ぅぅっ...」
「誰が笑えっつった。てめえには茶の用意しろとしか言ってねえだろう。それにしても不味い茶だな。泥水の方がマシってもんだぜ」
 部下たちが熱さに芋虫のように転がりまわる相模を蹴り上げぼさぼさした髪を掴んでは無理矢理起き上がらせる。相模は泣き崩れてごめんなさい、もう許してくださいとだけ繰り返し言い続けた。
「ああ、その言葉、あんたが犯した女どもに言うべきだな」
 相模は顔を一瞬こわばらせて、またぐずぐずと泣き崩れる。俺はそれがどうにもむかつくので、部下に目配せして殴らせる。相模の悲鳴が響く中、俺は左胸ポケットから煙草を取り出し、口にくわえると、隣のまた部下がライターで火をつけるのでただ真っすぐとその様子を見るだけだ。
 この下衆の豚野郎は過去に女をレイプした。懲役を終えても執行猶予が3年ついている。それにも飽き足りずにまた女にわいせつ行為を働き、俺達に金を借りて示談で強引に解決。本来ツーアウトでまた豚箱行きだし、こいつの腐った部分を保護するようなところは俺は苦虫を食い潰したような気持ちにもなる。まあ吸える分には吸い尽くし、不味くなったらとっとと捨てりゃいい。煙草と同じだ。
 俺は目の前で血だるまになりながら泣きわめく相模の額に煙草を押し付けて消す。
「いっ、いっ、いぃぃ~...」
「あんま騒ぎ立てんなや。あんたまだ弁当持ちだろ。こんなの通報されたらおまけにあんたのやったこともバレちまうぞ」
 部下によって息も絶え絶えに相模は座らせ直される。
「俺は平和主義だ。こんなとこで愚図ってる場合じゃないだろう。明日になれば利息また増えるぞ」
 相模の息がどんどん浅く小さくなる。俺はそれをせせら笑い、続けて言う。
「だから、俺は平和主義と言っているだろう。あんたは金を返したいし、俺は金が欲しいんだ。どっちもが幸せになれるように提案したいんだよ。ああ、なんて親切なんだろうなあ!」
 相模はただ机に刺さるドスを呆然と眺めるだけで、話なんかは聞いていなさそうだった。
「...おい、礼は」
「あ、あああ、あり、あが、あああありが、とうございます......?...」
「よし」
 床のあちこちに相模の血が染みついていて、沈黙の重さに相模は一体何を言うのが正解か不正解か分からない様子であった。きっと気が狂うような絶望に立たされて、どうやって生きていけるかだけを考えている。今更、何を。ここにきて自己主義な被害者面をする弱さなど同情どころか見下すだけだ。それに、あれだけの悲鳴や俺達の怒号に近隣住民は警察一つ呼んじゃいないのはやっぱり手前が可愛いばかりだからだ。俺達に目を付けられるのを恐れずに相模を庇ってやる奴がいないことにだけは同情してやらなくもない。
「...借金が膨れあがった人間がどうなるかなんてもう分かってんだよ、風船みたいにパン!だ」
 俺は笑ったが、今度は相模は笑わなかった。
「膨れあがる風船には空気を抜いてやらなくちゃ。そうだろう。...まどろっこしい比喩はもう止めだ、あんたの臓器を売ろう」
 相模はみるみる顔を白くさせ、嘔吐してしまった。
 俺は俺と相模の間にあるドスを抜き取って身を乗り出し、相模の頬にその刃で頬を叩く。
「安心しろ。ヤブ医者なんか飼ってないから短くても1週間は生きられるぞ」
「なんでっ、こんな、お、おれ、俺俺俺はわわァあ、あああッ」
「往生際が悪いわ!!」
 俺は相模の右目をドスで抉り取る。プチっとした感触が手にくるので不愉快だ。ドスを振って眼球を床に捨てる。もう相模の叫び声も聞き飽きたので俺はこいつの首を片手に掴み締め上げる。
「、ぐ、ぎぎぎ...ィぎ」
「これは私刑だ。てめえみてえな半端な野郎なら俺はいっそ死を選ぶぞ!てめえの覚悟くらいてめえでつけろ!」
 俺は片手を緩めると、相模は咳を吐きながら壮絶な痛みでまた数回嘔吐すると、顔を上げて俺を見る。
「臓器でも何でも売ってくれ!」
 俺はそれを聞いて、ドスを収めた。
「ははは、その意気だ。あとはついでにあんたの癖の悪いナニも切ってもらいな」
 相模は薄ら笑うと俺はそいつの顔を殴る。
「今のは冗談じゃねえよ」

 俺達は相模を連れてさっさとアパートを後に出た。黒のベンツの後部座席に座るとドッと疲れる。
「兄ィ、今日はもうここまでで事務所戻ります?」
「いや...もう1件今日は片したい。八幡の高松がキャバ出したあたりにシャブ回してる命知らずなバカ連中がいるだろ」
「それは八幡組の奴らに任せればいいじゃないですか」
 部下の男はそう言いつつも車を俺の言う方向へ走らせる。俺が一度言ったらきかねえ男だと分かっている証拠だった。
「八幡と付き合いがあるならゴミ清掃くらいしてやるのがいいってもんさ。あと、それが終わったら俺をそこらで下ろしてくれ」
「一人で出歩いて大丈夫なんですか」
「はは、報復が怖くてヤクザなんかやってられるか」
 窓の外を眺めると、町のつき始めた明かりがぐんぐんと後ろに溶けていって、それが海を泳ぐ魚みたいに見えた。マグロは泳ぎ続けないと死ぬらしい。そうしないと呼吸ができないからだ。それはどこか俺に似ている。
 この血は一体何を求めているんだろうな。果たして自分の信頼の獲得か?それだけでは終わらないだろう。終わりがあるなんてそれこそつまらない。俺はただもっと燃えるような何かをずっと求めているのだ。
「...八幡組に会いたい人がいるんだ」
 車が赤信号になった時、俺は左胸のポケットから煙草を取り出し、くわえる。煙草の銘柄はパーラメント。煙草の先端に火が付くと、信号は再び青く光った。

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