レザークラフトしながら、人生について考えた

 ふとしたきっかけで、革を買ってきてちょこちょこ小物を作るのに最近夢中になっている。老眼もかなり進んできたので、細かい作業は苦手だ。机に向かって、手元の革で手仕事していると、妙に内省的になってくる。
 
 ヒトが火を使い動物の肉を利用できるようになってから、動物の皮も人の体を覆う衣服になったり、さまざまな道具になって利用され始めて以来だから、革細工の歴史は何百万年といったところだろうか。革を切ったり、糸で縫い合わせたりしながら思う。長い年月の間変わらない仕事をしていたたくさんの人たちがいたのだろう。もちろん革を提供してくれた動物たちもいる。わたしもヒトの歴史で繰り返されたことと同じことをしながら、いいものを作りたいと願ってこつこつ革に向かう。

 革は革屋さんが皮をなめし磨いて厚さを揃えて革になる。革を切ったり削ったりしていると、もととなった牛の皮膚の作りを反映して、革はいろいろな思っても見なかったような顔を見せる。細かい繊維状のものがほつれてきたり、層状のものが割れてきたりしてなかなかスパッとした加工断面にはならない。この革をまとっていた牛の体の一部だったことを実感する。ありがとう。この皮の持ち主だった牛に感謝する。ヒトに利用されるために生まれ育てられ牛の人生を終えた後も革を残してくれた。どうか次に新たな命として生まれたときには幸いに包まれてほしい。命は繰り返される、そう仏教の教えを噛み締めてみたりする。

 わたしはふりかえって、いい人生を送れているのだろうか。生きるだけでアップアップして、不甲斐ない生き方しかできてはいないだろうか。なにか誰かの役に立てたことはできただろうか。より良く生きたいと願ってはいても、空回りばかりではなかったか。人生の意味は何だろうか。

 革細工のヒントが欲しくて、都心部への用事があったとき、新宿にある古い革用品の専門店に立ち寄ってみた。

 初めて入ってみたお店は壁いっぱいに鞄やベルト、アクセサリーといった革製品が陳列されていて、壮観だった。革の素材も陳列されていて、牛革だけでなく、まだ元の姿をとどめている蛇やワニの革もあって興味深かった。奥の方で年配のご婦人が編み物をしながら、もう一人の若めの男性と店番をされているようだった。ご婦人が話し相手をしてくれた。

 お店の鞄を紹介してくれたり、いい製品を作っておられる職人さんの話や、お知り合いが手作りされた革小物を見せていただいたり、とても楽しかった。このお店を続けて50年以上だそうだ。ここのような、製品を作って売って修理もしているような店は世界中でもここぐらいですよ、と、とても胸を張っておられた。お孫さんが作られたというキーホルダーを見せていただいたが、手作り感が出ていてとても良かった。

 こんな感じのものを作ってみたいと、わたしが厚紙で作った型紙を見せると、とても親切に相談に乗っていただいた。これを読んだらうまく行くよと、20年ぐらい前に新聞に載ったという、革手袋の作り方が書かれた記事のコピーを頂いた。

 ちょっとした買い物もさせていただいて、お店をあとにした。

 自宅に帰ってから革細工をしながら、50年以上お店を続けておられる生き方について、いろいろなことを思ってみた。

 死して革を残せるような意味の知る人生を生きたい。2枚の革をできるだけきっちり縫い合わせながらそう思った。

#レザークラフト #思索

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