彼女になりたくない物語(1)

◎あらすじ
SNSのコミュニティで知り合った私と彼。
とあるメンバーの婚約祝いで久しぶりに集まることになった。
私が幹事をすることになった。


「何かプレゼントしよう」
言い出しっぺは私だった。

彼と先に合流して、お花を見に行く予定を立てた。
顔も声も素敵な人で、笑った時にできるえくぼがすごく魅力的だった。
出会った時、彼には彼女がいた。
後から知った話だが、彼女は嫉妬深く、異性との交流を避けていたらしい。
正直、チャンスだと思った。

彼女になりたいとは思わなかった。
あわよくばそういう関係になれたら…と思っていた時期もあったが、終わりが来る関係を彼とは築きたくなかったのだと思う。
いい女だな。
そう思われたかった。
彼の中にある、私という存在を変えたかった。大きくしたかった。

待ち合わせ場所に先に着いたのは私だった。
電話がかかってくる。
携帯を耳にあてながら、辺りを見渡す。
見つけた。
彼に駆け寄った。
「え、結ちゃん!?」
驚く彼が面白くて可愛くて、私はマスクの下で静かに笑った。

とりあえず一服。
変わっていない煙草のパッケージを横目に話しかけた。
「待ち合わせの時、なんであんなにびっくりしてたんですか?」
「めちゃくちゃ大人っぽくなってたから」
少し恥ずかしそうに彼は言った。
どうやら、彼の中の“結ちゃん”はよく言えば若く、悪く言えば子どもっぽかったらしい。

「綺麗になったんだね」
静かに私の目を見ながら言った。
あまりにも真っ直ぐ私の目を見るものだから、少し恥ずかしくなって通行人に目をやった。
傘を持っていた。そうだ、今日は少し雨が降っていた。

もう少し2人でいたかった。

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