彼女になりたくない物語(3)


今回のお店は、私のお気に入りの創作居酒屋。
「先に始めちゃいましょうか」
と声をかけ、ドリンクを注文。
「麻友子さん、改めてご婚約おめでとうございます!乾杯」
音頭を取り、グラスの甲高い音が重なる。
彼はひと口ふた口、口をつけたくらいでグラスを置き、私に声をかけた。
「結ちゃん、もういいよね?」
公園で見つけた宝物を披露したい子どもみたい。
無邪気な様子が、心に刺さる。
だめだ。封印したはずなのに。
彼はどんなキスをするんだろう。
彼はどんなSEXをするんだろう。
…どんな顔で果てるんだろう。

「はい」
悟られまいと分厚い笑みを向け、同意を示す。
お花がテーブルに置かれる。
暖かな明かりの下で、きらきらと、しかしどこか切なげに咲いていた。
綺麗だった。
麻友子さんはとても喜んでくれた。
封筒のマスキングテープも丁寧に外していた。
喜んでくれた。よかった。
“結ちゃん”は確かにそこにいた。
でも、私はいなかった。

2人ともいい具合にお酒が回ってきたところで、最後の1人が到着した。

お店を出る頃、麻友子さんはべろべろで、彼も顔が赤かった。
ここまで酔っているのは初めて見た気がする。
「酔うとちゅーしたくなっちゃう」
と言って、隣に座っていたメンバーの頬にキスする始末だ。
隣に座っていれば、ボディタッチとかあったのかな、と考えている自分がいた。

麻友子さんを駅まで送ろうと提案すると、2人とも快諾してくれた。
駅までそう遠くはない。
早く送り届けて、帰ろう。
淡い期待を抱いていた自分を、早く流してしまいたかった。
花だって、誰かに見てもらえるから綺麗に咲くのだ。
私は、咲けない。

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