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『かがみの孤城』、3つのおすすめポイント&あらすじ紹介

学校に居場所を失くした少女の前で鏡が光る。
通り抜けると謎の城。
集められた七人に見つかる共通点。
しかし、新たな謎が解けないまま事件は起こる……
(以上は短く一言だけの簡潔版のあらすじ。もう少し詳しい長めのあらすじはこのページの下の方にあります)

小説『かがみの孤城』(辻村深月作)については、すでに、作品論『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』(2023年1月、彩流社刊)を出版していますが、『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』は、あくまで、小説読了後または映画鑑賞後にお読みいただく本なので、ここでは、『かがみの孤城』未読・未鑑賞の方に『かがみの孤城』をおすすめする3つのポイントを挙げておきたいと思います。
2017年の単行本出版当時から「生きづらさを感じているすべての人に贈る物語」という宣伝文句のほか、「なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる」という紹介文が出版社、ポプラ社のウェブページに掲載されていましたが、自分に重要と思われるおすすめポイントで、必ずしもしっかりと宣伝されていないと思われる点があるので、そういう点にスポットを当てて、自分なりのおすすめポイントを3点挙げておきます。

【おすすめポイント①フリースクールの先生が活躍】
『かがみの孤城』は、不登校の中学生を主人公とし、フリースクールの先生が活躍するという画期的な小説です。日本のフリースクールの出発点となった東京シューレの設立は1985年であり、当時は、まだ、フリースクールの認知度は極めて低かったことを考えると、フリースクールの先生が活躍するベストセラー小説の登場は画期的です。ファンタジー作品としての秀逸さのみならず、現代の中学生を描く小説としても重要な作品だと思います。
『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』(北村正裕著、2023年1月、彩流社刊)の第2章には、1985年の東京シューレの設立について、
「その当時は、フ リースクールの先生が活躍する小説がベストセラーになる日が来ることなど、とても考え られなかったので、二〇一七年に単行本が発行され、翌年のベストセラーとなった『かがみの孤城』の登場には、日本のフリースクールの出発点とも言える一九八五年当時の私塾人の 活動を知る者として、特別な感懐を禁じ得ない」
(『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』p.115~p.116)
と書きましたが、この感懐も、『かがみの孤城』を応援する一つの理由です。
今では、フリースクールという言葉を全く聞いたことがないという人は少ないでしょう。しかし、つい先日、滋賀県の東近江市長がフリースクール支援に否定的な発言をし、「国家の根幹を崩しかねない」などと述べたことが報道されるなど、フリースクールについては、まだまだ理解が充分には進んでいないでしょうし、不登校が悪いことだと思い込んでいる人も少なくないかもしれません。まだまだそんな偏見があふれる中、学校という場に縛られない世界が、フリースクールという場のみならず、小説の中にも存在するということは、それだけでも、とても意味のあることだと思います。不登校の中学生たちが、鏡の城という虚構の世界の中で出会う物語は、それだけでも、充分に魅力的だと思います。

【おすすめポイント②作者でさえ気づけなかった衝撃のラスト】
『かがみの孤城』の魅力について、ネットでは「伏線回収」という言葉がしばしば使われていますが、『かがみの孤城』の衝撃のラストと伏線回収は、他の作品とは一味違います。その衝撃の大きさの秘密は、そのラストが、作者でさえ、雑誌連載当時には気づけていなかったようなものだったという点にあると思います。2017年の単行本で完結した物語のラストで明かされた秘密は、完結しなかった雑誌連載版とは矛盾さえするものであり、その秘密に気づいた作者が連載を終了して最初から書き直すという決断をしたことで生まれたものです。そして、その書き換え作業により、雑誌連載版にはなかった結末に向けての様々な伏線が書き加えられ、作者でさえ途中まで気づけなかった衝撃のラストと精密な伏線とが両立しているという珍しい作品です。もちろん、ラストで明かされる秘密は既読者だけのトップシークレットなので、未読の方は最後まで読み終えてから、『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』の第一章をお読みください。小説読了または映画鑑賞まではネタバレ情報にご注意ください。

【おすすめポイント③アニメの遺産を継承】
『かがみの孤城』は小説ですが、日本が誇るアニメの歴史的遺産を継承しているという面も見逃せません。『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』の第3章と第4章では、それぞれ、『魔法少女まどか☆マギカ』、『エヴァンゲリオン』というアニメの傑作との比較考察をしていますが、こうした傑作アニメとの比較に値するような面を持っているということも、『かがみの孤城』の大きな魅力の一つだと思います。『ハヤカワ ミステリマガジン』2023年7月号の書評「ミステリ・サイドウェイ」のページに掲載された『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』の紹介(嵩平何さん執筆)には「後半では同作と『エヴァンゲリオン』や『まどか☆マギカ』との比較というフックがあり、興味深く読み通せた」とありますが、こういう比較も、『かがみの孤城』を深く味わうために有意義だと思います。
一例をあげれば、『魔法少女まどか☆マギカ』では、パラレルワールドの生成が重要な要素ですが、『かがみの孤城』では、登場人物たちがパラレルワールドの可能性を考える場面が出て来る一方、主人公がその出現を阻止する物語になっているというところなど、アニメの歴史と無関係とは思えないような仕掛けが用意されています。『かがみの孤城』の作者の辻村深月さんは、かなりのアニメファンのようで、2023年3月に出版された『Another side of 辻村深月』(辻村深月著、KADOKAWA刊)には、「辻村深月の人生を変えたアニメ5選」という古い雑誌記事の再録もあり、この中には『新世紀エヴァンゲリオン』も挙げられています。こうした作者の幅広い鑑賞体験が『かがみの孤城』を魅力的な作品にしているのかもしれません。『エヴァンゲリオン』の強い影響下に生まれたと思われる『魔法少女まどか☆マギカ』は、これまでに、テレビシリーズに続いて劇場版3作が公開され、その第3作にあたる『叛逆の物語』の続編として、まもなく『ワルプルギスの廻天』が公開されるとのこと。これを機会に、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ』3作も、未視聴の方にはおすすめしたいと思います。『魔法少女まどか☆マギカ』(通称=まどマギ)劇場版3作品の順番は、①『前編 始まりの物語』→②『後編 永遠の物語』→③『新編 叛逆の物語』です。
なお、『かがみの孤城』そのものもアニメ映画化されていて、現在ではブルーレイディスクも発売されデジタル配信も行われているので、こちらの鑑賞もおすすめします。

以上、小説『かがみの孤城』、3つのおすすめポイント
①フリースクールの先生が活躍
②作者でさえ気づけなかった衝撃のラスト
③アニメの遺産を継承
……について書きました。
それでは、未読の方向けのネタバレにならないようなあらすじ紹介……

【辻村深月作『かがみの孤城』あらすじ】
五月。学校に居場所を失くし、家に閉じこもっていた中学生、安西こころは、部屋の鏡を通り抜けて謎の城にやってきます。そこには、オオカミさまという狼の面をつけた少女が待ち構え、こころを含めて7人の中学生が集められていました。オオカミさまによると、城には日本時間の午前9時から午後5時まで自由にやってくることができるということですが、午後5時になっても帰らなかったらその日城に来ていたメンバーともども狼に食われるといいます。城には願いの部屋にはいるための願いの鍵が隠されていて、それを見つけて願いの部屋にはいればひとつだけ願いが叶うといい、誰かが願いを叶えたら、その時点で城は閉じられ、誰も願いを叶えられなかった場合でも来年の三月三十日になったら城は閉じられるといいます。
中学生たちは鍵を探しますが、なかなか見つかりません。
彼らは、徐々に親しくなり、こころは、仲間の少女二人に、自分が学校に行かなくなった理由も話します。
やがて、一人が制服を着てきたことがきっかけで、7人のうちの6人が南東京市の雪科第五中学校の生徒であり、残りの一人も同じ中学に通うはずだったことがわかりますが、何故、彼らが城に集められたのか、そもそも城の正体が何なのかは、いっこうにわからないままでした。
冬になり、メンバーの一人の頼みで一人を除くメンバー全員が一斉に登校する約束をしますが、そこで、メンバーたちは、予想外の事態に遭遇します。
そして、謎が解けず、鍵も見つからないまま、いよいよ城が閉まる三月三十日の前日、ついに、決定的な事件が起こり、彼らは絶体絶命の危機に陥ります。彼らの命を救える可能性があるのは、ただ一人、安西こころだけ。仲間を助けるため、こころは……


ブログ記事「『かがみの孤城』再開城特別上映/応援する理由」
http://masahirokitamura.dreamlog.jp/archives/52498770.html

『かがみの孤城』リンク
http://masahirokitamura.my.coocan.jp/kagaminokojo-l.htm

小椋東近江市長のフリースクール発言についてのX投稿(23年10月19日)
https://twitter.com/masahirokitamra/status/1714943485315625267

『「かがみの孤城」奇跡のラストの誕生』出版情報(彩流社)
https://www.sairyusha.co.jp/book/b10025211.html


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