memo_ 「意志のない上場」がもたらすもの ベンチャー企業が上場する“本当の意味”を考える

ベンチャーが上場する、本当の意味とは?
上場の意義という話で言うと、逆に未上場でいることのメリットはなんなのかと常に会社で議論していました。未上場でいる一番のメリットって、成長投資を含めて、赤字を掘りまくれることですね。突き詰めて考えるとそうじゃないかと思っています。
僕らでいうと80億円の調達を行い、50億円くらい赤字を累損で出しました。直近の四半期は黒字化しているんですが、これは無理やりしたんじゃなくて、自然に黒字化されたんですね。つまり、既存の印刷事業においては赤字を堀り終わりましたと。
掘るのは大変な作業で、経営者としてけっこう精神的にきついんですけど、50億を使いきって、これ以上赤字を掘る必要がないというので、ある意味未上場であるメリットというのを取りきりました。

通常のマザーズ上場では全体のオファリングの内、80パーセントくらいを個人の投資家、20パーセントくらいを機関投資家の方に割り振るんですが、我々でいうと個人投資家の方が50パーセントで、機関投資家の方にも同じように50パーセントをオファリングで渡していて。
一方で、機関投資家のうち、70パーセントくらいを海外投資家の方に渡す結果となり、特徴的なIPOをあえて設計しています。さっきの長澤さんの話にちょっとあったんですけど、今や東証の売買は7割くらいは海外投資家という事実も意識しました。背景として、現在数千億とか1兆円クラスの時価総額の会社の資本構成・資本政策をかなり調べた上で、海外機関投資家がドライブして株価が形成されていることを理解して、上場時から意思を込めて資本構成を作りにいくことの大事さを痛感しました。


どのくらいのサイズ感で資金調達したいのかが、上場・非上場の見極め
IPO時の調達規模を考える際、単にキャッシュの量だけじゃなくて、BSサイド、特に「成長に向けてどのぐらいエクイティのサイズが必要か」ということをしっかり考えることが大事だと思います。時価総額に比してエクイティが非常に薄い会社が結構あります。新興上場企業でリスクの高い事業に取り組んでる場合、ちょっとした事業環境の変化でいきなり債務超過になっちゃうような上場会社もあったりします。
ご存知の通り、東芝もエクイティの薄さで苦しんだんですよ。リスクをとって成長していこうとするなら、エクイティの厚さがないと打席に立てない。思ったほどバットを振れないことがあるんです。
不確実性が高い時代で、トライした事業のどれかしか当たらないという状況では、「3打数1安打でもいいですよ」というくらい打席にたてるようにエクイティの厚みを持てるように、調達の規模感を考えることが必要だと思います。

ラクスル上場のタイミング
もう1点、事業上のニーズもあります。当社は印刷や広告、物流といったBtoB領域のシェアリングプラットフォーム事業を行っています。

私の参画時は印刷事業のみ実施していたのですが、ちょうど2015年の終わりから新しく物流のシェアリングプラットフォームとしてハコベル事業を始めていて、ここの立ち上げを未上場の間に形作っておきたいよねというニーズが新しく出てきていました。

そういった資本市場の状況と、事業上のニーズで遅らせていったというのが、この1年半くらいですね。さすがに既存の印刷事業で赤字を掘る必要はなくなってきたよねとなったタイミングで、2017年の後半くらいから本格的に証券会社の審査の手続きをして、東京証券取引所に申請させていただいたのが今年の前半というかたちです。今年の4月の終わり、ちょうどゴールデンウィーク前に承認に至ったというスケジュールです。

複数のフェーズの事業を持っていることで、経営の力が問われる
上場のタイミングに関して、日本で上場後にぐぐっと伸びていく会社の多くに共通して見られる現象があります。
これまで単一の事業しか取り組んでいなかった会社が複数の事業の柱を持ち始めたときに、多くの会社で急激に評価が上がっています。例えばカカクコム社で食べログの成果が数値に現れはじめたときだったり、エムスリー社で、“MR君”のビジネスに加えて、治験のサービスのM&Aの成果がで始めたときなんかがそうです。一方で、マザーズの場合単一事業で上場するパターンが多い。そうすると、事業の盛衰=会社の盛衰なんですよね。
単一事業のときは、「全員が前線に出てみんなで執行がんばってる」みたいなスタイルになるんですけれども、複数事業で違うフェーズの事業をもっていると「経営」の力が問われてきます。継続的に成長していくためにはその「経営力」がキーになるわけですが、実際には、それがあるかないかまだわからない段階で上場した会社が多い。
メルカリとラクスルの場合、違うフェーズの事業をポートフォリオに抱えていて、それをどう経営としてコントロールしていくかという経営力が問われた会社だと思うんですね。
両社とも既存事業が軌道に乗ってきただけでなく、海外だったり新規事業だったり、違うフェーズの事業がぐっと出てきたタイミングで、まさにこれまでのパターンでいうと、ぐっと評価が上がる可能性を秘めたタイミングです。最近の事例だと、ユーザベースやマネーフォワードにもあてはまりますよね。
日本の場合、フェイスブックのように単一の事業で億人単位の規模まででかくなるのって、人口や言語の問題もあって簡単じゃないですから、複数の事業で成長を再現できるか、というのがより大事になってきますよね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?