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伸びしろ大! ネットワーク・オーディオで小実験

 わが家のネットワーク・オーディオ関連は至ってささやかなものでしかなく、あまり読者の皆さんへ胸を張って紹介できるような代物ではない。しかし、それでもハイレゾ音源の旨味をそこそこ味わうことができているようには感じられている。

 陣容は、古いパイオニアのユニバーサルBDプレーヤーBDP-LX58に内蔵されたネットワーク機能を用い、I/O DATAのオーディオ用NAS「RockDisk」HLS-C1.0HFへ格納した音楽データを再生している。いずれもローエンド製品といってよいものだが、それでもケーブルをはじめとするアクセサリー類を充実させていくと、取材中のわが耳を疑うような勢いで音質が向上していく。そう素性は悪くない製品群といって間違いではないだろう。

 ディスクプレーヤーとして愛用していたBDP-LX58へRockDiskを加えた最初期の頃の音は、お世辞にも好ましいとはいいかねるものだった。同じ音源をCDとハイレゾで聴き比べても大きな差が出ず、というかむしろ少々音色がヘンテコだったり、少なくともお客様へこのままの陣容でお薦めするわけには決していかないというレベルだったのは疑問がない。

データ用LANケーブルはお薦めできない

 音の冴えない理由は明白だった。まず、LANケーブルがろくでもなかったこと。そもそもLANケーブルをはじめ、ネットワーク周辺の試聴と実験へ用いるためにそろえた装備だ。まず始めにレファレンスとして導入したケーブルは、バッファローなどのごく一般的なデータ用LANケーブルだった。高級なケーブルをテストする際の"実験台"として、自宅の装置には要所に「ガマンできる」レベルの廉価ケーブルを配しているのだが、この場合その実験台がとてもガマンできるレベルではなかった、ということである。

 こういう仕事をしていて、一応曲がりなりにもネットワーク環境を整えたとなると、チラホラとではあるがアクセサリーの試聴依頼が舞い込むもので、最初に聴いたオーディオ用LANケーブルがどの銘柄のものだったか、今となってはもう思い出せないが、それがわが家へやってきた時の衝撃たるや、それはもう凄まじいものだった。ノイズフロアが大幅に下がって情報量が激増、同じ音源を聴いているとはとても思えない品位差へ感激するとともに、「今まで何という音を聴いてきたんだ」と頭を抱える仕儀となった。

 それ以来、データ用のケーブルは放逐してオーディオ用LANケーブルを使うようにしている。まだまだ伸びしろだらけといったところだが、それでもハイレゾならではの旨味や繊細さをしっかりと感じ取ることができるようになっていたものだ。

EE1はネットワーク環境激変の立役者となる

 そこへ彗星のように登場したのが、英イングリッシュ・エレクトリックのLANノイズフィルターEE1である。2本のLANケーブルの間へ挟むことで、音楽信号以外のノイズ成分を熱へ変換して取り去るという機構の製品だ。

English Electric EE1 ¥63,800

 これまで自宅のネットワーク音源は、かなりメリハリ調に躾けているつもりだった。いわゆる変態ソフトなどを聴く際には、それがむしろ良いスパイスとなっているように感じていたものである。ところが、EE1を自宅ネットワーク・システムへ挿入したと思ったら、そのメリハリが大幅に軽減され、まるで良質のアナログを聴くようなサウンド傾向へ変貌してしまったではないか。

 しかも、それでいて変態ソフトが物足りなくなってしまったりすることなく、パワフルな音はパワフルに、エッジの立った音はエッジを立てて聴かせるのだから、この音質変化は本質的な部分の大幅な向上によるものと認識する外ない。

 EE1はできるだけ下流に使い、しかも同製品の下手(しもて)に高級ケーブルを使うのが最も良い結果が得られるということなので、現在はかなり贅沢をして2本の高級LANケーブルの間にEE1を挿入、ハブ代わりに使っているWi-Fiブースターとプレーヤーの間を伝送させている。

EE1導入に伴う疑問を実験で解決しよう

 しかし、ここでムクムクと疑問が湧き上がってくる。ならばEE1の上流にはヤクザなケーブルを使っても大丈夫なのか。EE1の下流に使った時とEE1なしで使った時の高級LANケーブルの音質傾向に大きな変化はないのか。などなど。これはもう実験してみるしかあるまい。

 早速、贅沢にもコード・カンパニーのEPICをハブとEE1の中間に用いていたのを、初期に使って幻滅したデータ用ケーブルに替えて音を出してみたら、さすがに全く聴き分けがつかないということはないが、あの非オーディオ用にまま見られるガサガサして情報の欠落した感じ、音色の不自然さなどはほぼ味わわせることがない。いやはや、EE1は一体何という水際立った働きを示すものか。ちょっとこれまでの常識では想像できないグッズといってよいだろう。

 続いて、こちらはデータ用だがそう悪くないものだからNASとハブの間に使っているアマゾン・ベーシックの30cmLANケーブルを、こちらもメーカー不明のデータ用(1m)に交換してみたら、さすがに若干音場が濁り、音像が痩せるような感じになる。それでも、初期の頃の絶望的な音質とは大違いだ。

 というわけで、この状態をテストベッドとして、EE1とプレーヤーの間のケーブルを、何銘柄か手元にきている高級ケーブルと、比較対照としてアマゾン・ベーシックを加えて、聴き比べてみようと思う。

アマゾン・ベーシックは太刀打ちできるか?

 まずアマゾン・ベーシックから聴く。LANケーブルはあまり短いと所期の性能を発揮させづらいという声も聞こえる半面、私のような文系オーディオマニアはついつい短いケーブルへ惹かれてしまう。前に音楽之友社・月刊ステレオ誌で、何でもないデータ用LANケーブルを聴き比べるという神をも恐れぬ企画の試聴を拝命した時、その中で最もオーディオ的に優れていたのは他ならぬ一番短い個体だった。

 編集子によると、そのケーブルはアマゾンで購入したというので、検索して同じものを買おうとしたら残念ながら品切れ、それで後に登場した同じようなアマゾン・ベーシック製品を購入したという次第だ。導入してすぐの頃は、決してそう悪くないのだが何となく中低域から下に躍動感がなく、水中を歩いているような抵抗感というか、違和感があったものだが、それも使っているうちにこなれてきて、今はまぁとんでもない激安ケーブルの割にそこそこしっかりした音を聴かせるな、という印象の製品である。

Amazonベーシック LANケーブル(0.3m) ¥1,451(5本パック)
※私が購入した頃は1本売りしていたのだが、あんまり安いせいか5本パックになってしまった。
それでもまだお買い得といえるだろう。

 クラシックはやや音場が浅めに展開するものの、グランカッサはかなりパワフルでしっかりと角を出す。オーディオ用の高級LANケーブルと比べれば、それは聴き劣りすることに違いはないが、それでもEE1を除けばすべてデータ用のケーブルで接続していることを考え合わせれば、かなり立派な音を聴かせているといってしまってよいうだろう。

 ジャズの試聴音源には匂い立つような濃厚で艶やかな残響が含まれているのだが、それがやや浅めになるのはクラシックと同じだ。しかし、EE1登場以前に味わっていた砂をかむような音響成分はほぼ耳へ届かなくなっている。ピアノの実体感、ウッドベースのソフトだがよく弾む質感はかなりのハイレベルで再現してくれている。

上流と下流を入れ替えると、やはり差はある

 ここでちょっと悪戯を思いついた。EE1の上流と下流をつなぎ替えると、音はどう変わるかというものだ。つまり下流側にはかつて絶望したデータ用ケーブルがくることとなる。EE1があればそう大きくは変わらないのか、それともやはり絶望的な差があるのか。少々怖いもの見たさ的ではあるが、実験してみたいではないか。

 クラシックはちょっと線が細くなるが、あれあれ、かつてほどおかしな音にはならないぞ。むしろ、アマゾン・ベーシックよりも帯域バランスはいいかな、とすら思わせる。ただし、全域に力がなく、やはり口先だけで歌っているようなつまらなさ、音楽へ没頭できないもどかしさがある。ま、そりゃそうだろうなという外ない。

 ジャズも別段音楽を聴くのに不自由はないが、心を鷲づかみにするような魅力や迫力には欠けるといわざるを得ない。同じ音楽なのに、全然面白く感じられないのだ。ごくほんの僅かな差ではあろうと思うのだが、やはりオーディオは薄紙1枚、髪の毛一筋でガラリと再現が変わる世界だ。甘く見てはならないなと、改めて自戒した。

■ゾノトーン Shupreme LAN-1

 それでは、いよいよ本命の高級オーディオ用LANケーブルの試聴に移る。1本目はゾノトーンShupreme LAN-1を聴く。7N銅とPCUHD、純銀コートOFC、高純度OFCの4種導体を、同社独創の「黄金比」を元に配分したものだ。青い化繊製の布スリーブがかけられ、触った感じでは非常にしっかりと締めあげられているように感じさせる。しなやかだが堅いケーブルである。

ゾノトーン Shupreme LAN-1 ¥64,900(0.6m)

 クラシックは1発目にグランカッサの猛烈な一打が入るのだが、もうそれを聴いた瞬間に「あぁ、データ用ケーブルなんて使うものじゃないな」と痛感する。音像は広大で澄み切った音場へ遠めに定位し、楽員の姿は鮮明で1人ずつ表情が読み取れるのではないかという描写能力に舌を巻く。全体に照明がやや明るくなったような表現を聴かせるが、これは同社の持ち味の一つといってよいのではないか。弱奏時のたおやかさ、強奏時の天井知らずに伸びる方向が実に楽しい。

 ジャズも広大でむせ返るほど濃厚な音場の中で、ピアノトリオが美麗かつ生々しく歌いまくる。試聴トラックはアウトテイクで、打ち合わせと思しき喋り声も随所に入るのだが、その声ですら濃厚な音場へ融け込んで何とも美しい。こんな音を聴いてしまうともういけない。惚れてしまうこと請け合いである。

■コード・カンパニー EPIC

 続いては、英コード・カンパニーのEPICを聴こう。物量も手間もかかるが同社ケーブルの音質を劇的に向上させた「アレイ・テクノロジー」を採用、芯線は銀メッキ無酸素銅だが、その銀メッキは下地なしのダイレクト・メッキという。下地メッキの音質的影響を排除しつつ、そのために行う高度な表面処理が特に高域信号の流れやすさに大きな影響を与えているという。絶縁体はフッ素系のPTFEが採用されている。両端プラグがハンダ付けされているのも見逃せない。

コード・カンパニー Epic Streaming LAN ¥110,000(1m)

 クラシックは非常に抜けが良くスカッと晴れ渡ったような表現が冴える。レンジが広くどちらかというと穏やかな方向だが、音の角を鈍らせて穏やかさを演出するのではなく、トゲやヒゲといった歪み成分を極力排除した結果なのであろうという、確かな説得力がある。

 ジャズはゾノトーンより僅かに線が細いかと思わせるが、広大な音場へ浮かぶ音像の配置、遠近感がくっきりと浮かび上がる。ピアノやウッドベースの音像はピシリとピントが合い、ハイスピードに音が飛び出してくるが、それが耳を刺すことは全くない。しっとりと潤いがあり、しかし音像へまとわりつくような感じのない音場の濃厚さが素晴らしい。

 思えばこのケーブル、EE1とある種純正組み合わせ的なものでもあろうから、まぁ相性は良くて当たり前ともいえようが、それにしてもEE1以前とはかなり様変わりした表現力を聴かせてくれることに感激した次第だ。

■ティグロン TPL-2000L professional

 最後はティグロンのTPL-2000L professionalを聴こう。内容についてあまり多くは解説されていないが、導体はおそらく同社の誇るディップフォーミングOFCで、高周波と不要振動の両方に卓効ある「アドバンスドマグネシウムフィルター」も装備されている。DF-OFCとともに、マグネシウムは同社の基幹技術といってよいだろう。両端プラグはテレガートナーの特注品というこだわりぶりが光る。

ティグロン TPL-2000L professional ¥88,000(0.5m)

 クラシックは、ギリギリまで凝縮したエネルギーを一気に放出するような一閃のグランカッサが素晴らしく、広大で見晴らしの良い音場の中で大編成の吹奏楽団が骨太かつ軽やかに躍動する。ほぼ同じ位置で演奏していても、例えばトランペットとホルンでは遠近感に極端な差がつくものだが、それを克明に表現するのがこのケーブルで、おそらく微小域のリニアリティが良く、ノイズフロアが極めて低いのであろう。

 ジャズは全体に音量感がアップし、ウッドベースもピアノも実体感豊かに、それほど叩きつけるような演奏でなくとも底力的な迫力を感じさせるのが素晴らしい。どちらかというと陽性で膨大な情報量を楽々と紡ぎ上げているような、そんな印象だ。同社の独創となる「Dual HSEトリートメント」バーンイン技術で音が磨かれているのも、この高音質へ資するところ大なのであろう。

EE1はヘボケーブルのボロを隠す?

 わが手元にある高級LANケーブルはこんなところだが、総じてケーブルの特徴はよく表現されていたと思う。少なくとも、EE1導入によってLANケーブルが試聴しにくくなるということはあまりないのではないか。

「あまりない」という曖昧な書き方をしたのは他でもない。オーディオ用の高級ケーブルならそれぞれの持ち味をよく表現しつつ、絶対的な性能を向上させる役に立っていると思われるのだが、問題はクオリティの低いケーブルだ。例の「絶望的な」データ用ケーブルまで、オーディオ用と比べちゃいけないが、そこそこ以上の音質で音楽を鳴らしてしまったのだ。やはり、試聴する際にはいったんEE1を外し、リファレンス・ケーブルをつなぎ直してから聴き比べるという作業を行った方がよかろう。

 というわけで、最後にEE1を外し、TPL-2000L professionalを直につないでみた。音はまぁ決して悪くはないが、若干トゲやヒゲが加わり、メリハリ調といえば聞こえはいいが、やはり少々聴きづらくなることは避けられない。いや、絶対的にかなり凄い音であることは間違いないのだが……。改めてネットワーク・オーディオ周りのノイズがいかに音楽信号を汚しているかを痛感するとともに、EE1の卓効っぷりを強く認識する試聴となった。

■試聴に用いたソフト

HRx Sampler 2011
 
米REFERENCE RECORDINGS HR2011 ※輸入盤
米リファレンス・レコーディングズの優秀音源16トラックをハイレゾで収録したサンプラー。
DVD盤のみで発売されている。13年も前のディスクだが、まだ入手は可能だ。
今回は4曲目のウォルトン/戴冠行進曲と
16曲目マイク・ガーソン/トリオ・ブルース(アウトテイク)を聴いている。

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