スイスアルプス天然水で顔を洗った話

その昔、フランスはエヴィアンの町を訪れたことのある弟が「俺、エヴィアンの泉で体洗ったんだよね」って幾分ドヤりながら言っていて、ちくしょう ちょっと羨ましいじゃねーか、とわたしはかねがね思っていたのです。

ちなみにそのとき弟と話していた議題は「現代人は最大何日間風呂に入らずにいられるか」で、結論としては「季節によって差がある/男女によって差がある」ことに落ち着いた。至極曖昧な結論で申し訳ないが、こればかりは体質(汗かきかどうか)や性格(きれい好きかどうか)もあるし、風呂文化へのなじみもある。

ちなみに我が弟の場合、真夏は2日が限度で、3日目にもなるとジョジョ5部のボス・ディアボロのごとく「オレのそばに近寄るなァァーーーッ!」となるらしい。男って大変ね。(とはいえ女のわたしも真夏は2日が限度だと思う、真冬なら一週間くらいは…、、いえ、もちろん毎日ちゃんと入ってますが!)

で、話はそこから十年以上飛びまして。スイスはチューリヒの街を訪れたときのこと。

ちなみにそのとき私は中東からの帰路で、スイスにはトランジットのために一泊だけ立ち寄ったところだった。現金はなく、クレジットカードだけが頼りという状況。そんな状態でチューリヒ駅に辿り着いて、なにはさておき水分補給…とコンビニに立ち寄ってびっくり、えっ…水のペットボトルが…一本400〜500円くらいする…ドユコト… ドユコト…(悲しいかな怒涛の円安で、今ではこれが普通になってしまった… ほんとにかなしい…)とパニクりながらも、うわべは「ま、こんなもんよね」みたいな顔でそのペットボトルを掴んでカードを切り、宿に辿り着いてからえらいこっちゃ…と頭を抱えたのです。

スイスの物価がべらぼうに高いのは知ってたけど、まさかここまでとは。ちなみにその直前に訪れていたイスラエルのテル・アビブも世界有数の物価高騰国で、外食はほとんどせずに貧乏旅をしていたのです。まぁ外食を控えていたのは体調のせいもあったのだけど、それはまた改めて語る機会があれば。それで、旅も終わりに近づいたし、ちょっとこじゃれたごはん屋さんとか行こうかなっ!とか思ってたのに、ペットボトル一本でダメだった。心が負けた。ジョジョ3部で承太郎にポーカーで負けたときのダービー兄並みに…ダ…ダメだ…恐ろしい…ビ…ビビッちまって…ってやつです。

お高かったお水。

さいわい機内食はわりとがっつり食べていたし、おみやげ&おやつ用のお菓子やチョコレートをたくさん持っていたし、それらをかじりつつ夕べの街をそぞろ歩いて(この散策は大変に素敵でした)、次の日の朝。

かの有名なリンデンホフの丘を歩き、フラウミュンスター教会にさしかかつたとき。犬の散歩をさせていた若夫婦が、スッ…とペットボトルを出して広場の泉の水を汲むと、手のひらに受けて犬に飲ませ…そのまま自分もそのペットボトルを呷るではないですか!

フラウミュンスターの噴水

そのとき、はたと気づいたのです。これは天然水チャンスなのだと!!

考えてみれば、スイスは山岳国、アルプスそしてハイジの国。湧き出る泉はすべてアルプスの天然水。水は初期費用(ペットボトル)だけ投資すればあとは街中で無料チャージし放題なのだと!!!

そうしてわたしは夢中で残り少ない手持ちのペットボトルの水を飲み干し、泉から水を注いでむさぼり、頭に注ぎ、顔を洗いました。そのとき傍らに居た犬、「人間もこの泉ではしゃぐんですね!!」ってかんじで尻尾振ってじゃれついてきたよね。飼い主のほうは「見ちゃダメ!」みたいな感じで犬を連れてそそくさと去っていった。そうですわたしは噴水にはしゃぐ女。

こうしてわたしは無事飲み水を手に入れ、無事観光を終えて、無事空港の手荷物検査でアルプス天然水ペットボトルを没収されるのでした。知ってたけど…なんか、捨てがたくて…さよなら私の手汲みアルプス天然水…

気付いたら、いろんなところに天然水。
いちばん飲みたくない天然水で賞

 

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