小説「二十歳の夏――ひげを剃るとき」三井ちあき
おじいちゃんはかすかに冷房のきいた部屋で高校野球を観ている。
「はい、おじいちゃん。麦茶」
「ああ、ありがとう」
なつみはそっと麦茶を置いた。
「あ、なつみ。おまえ、この夏で幾つになる?」
「二十歳よ」
なつみの誕生日は八月八日。夏休みなので、小学校の御誕生会はいつも九月生まれの人と一緒だった。もう御誕生会の歳でもないのだが。
「もう二十歳か…。二十歳といえば、おじいちゃんはもうその頃は就職して、川島に勤めとったよ」
「ふーん」
川島というのは、おじいちゃんが勤めた川