うえっ

JRのシートに座る僕の耳にうえって呻き声が聞こえてきてびちゃびちゃという水音が続き、僕はたまたま瞑っていた目を絶対に開くまいと決意する。目の前の人、その後ろに別の列、そのまた向こうに対面のシートに掛ける人達と夜の暗い窓ガラス。真っ暗な世界の中にそれらを思い浮かべ、右奥のドア手前に立っていた人が床に向かって口から赤紫色の吐瀉物を流し落としている様子をイメージしそうになってイメージし切らないように踏ん張る。そこでようやく息を止めなきゃ、ということに思い至って口の中で舌を動かし鼻との間を押さえた。車内の匂いを吸い込み自分も貰い嘔吐してしまう予感を頭の中に思い浮かべながらそれを防ぐために必死で息を止め続ける。

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