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恋が遠い日の花火になってよかったと思ったこと

隣のテーブルに、大学生らしき男女が座っていた。最初、デートかな?と思ったが、男の子は、女の子の恋愛相談を聞いているようだった。
「あーちゃん(仮)が良いなら、俺はそれでいいと思うよ!」
ちょっとびっくりするほど、大きな声。「ただその恋愛には利害関係が見えるから。そこだけ俺は心配。うん。」なるほどあーちゃん(仮)の彼氏はあまりいい人じゃないのね?
「元カレとして言わせてもらうけどさ!」あ元カレなのか。あーちゃん(仮)はすごく小さい声で言った。「そういう付き合いが、私は楽なの」そしてさささ、と携帯を触った。
「また携帯いじってる!キタミ(仮)と連絡とってんの?女の顔になってっからわかるよ俺!」
このあたりから、私と夫は焼肉どころではなくなってきた。彼の大声に、彼女は携帯をいじりながら(たぶんだけど、誰かにこの状況を実況中継してたんじゃないかな…)6回に1回くらい適当に答えている。

話をもれなく聞いていたら、ふたりの状況が分かってきた。
・ふたりは大学内の同じサークルで出会い、付き合いはじめた
・しかしやがて同じバスケ部の、かっこよくてバスケの上手な先輩に彼女を取られてしまった
・男の子はそれでも彼女を諦められない
・彼女もそれを知っているが、もう彼に興味がない

彼のセリフが悲しみ(私たちの)を増幅させる。
「俺はバスケだけの男じゃないから。むしろゲームの方が好きだし」
「正直、女なんていくらでも他にいるんだよ、でも誰でも良い訳じゃないしさ」
「もう俺、おまえのこと、結婚してもいいかなくらい思ってるから。だから携帯さわんなって」
「あーちゃんはいい女だからさ、別にいいんだよ、浮気したって、許すよ」
「唯一、俺の人生狂わした女だからさ。だから携帯置けって」
上から目線だけど心は土下座。あーちゃんは答えた。

「うん、あなたにも、ほかにいい人、きっといるんじゃないかな」 

ヒデブ。

いたたまれない。私たちの食欲は落ち、いつもより2000円くらいお安いお会計をして店を出て、ぽつぽつとこの振られ方について語った。
「これ以上ないくらいの負け戦」「惨敗」「全得点オウンゴール」「ぶった斬り」「100点ゲーム」「試合終了なのに諦めてないですよ」
「…私聞いていてほんと泣きそうだった」「いや、らには笑ってたよ」「そっか、メンゴ(ヨリ目)」「女の子、大してかわいくなかったよな」「めっちゃかわいかったよ」「だよなー」

なんだか悲しくて、お腹がいっぱいなのにミスタードーナツに寄った。
さっきのあれマジ、だっふんだぁだったな… と夫が言った。志村の力でも借りないと落ち込むよね、分かるよ。とおもった。


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