A子さんの恋人


読書会メンバーのユリちゃんと作家の島本理生さんがほぼ同じ言葉(登場人物がいじわるで良い)を使っておすすめしていた漫画「A子さんの恋人」を読む。主人公のえいこちゃんが、ニューヨークに残してきたアメリカ人の恋人(A君)と、渡米前に付き合っていた元彼(A太郎)との間で揺れ動く恋愛漫画である。A君もA太郎も、どちらもえいこちゃんのことを好き。かなり本気で好き。一緒に生きていきたいレベルで好きだ。それはえいこちゃんが、自分の仕事にまっすぐで、優しくて、優柔不断だからだ。恋と、芸術と、人生についてゆらゆらと考えることができる素敵な漫画でした。

全人類においてどうでもいいことですが、私の恋愛辞書に「迷う」という文字はないです。ショルダーコピーは常に一択「あなただけを永遠に好きです」です。(なのになぜいつの間にか好きじゃなくなってしまうのかが本当にわからず悩んで、ほぼ日の企画で谷川俊太郎さんに相談してしまいました。)だけど、えいこちゃんの気持ちは随所で痛いほど分かった。いつも、恋というものは恐怖が支えているものだ。

「私がもっとあなたを好きになったら、あなたは私を好きでなくなるでしょう?」A太郎と付き合っていた頃、えいこちゃんはそう思っている。A太郎が「僕が君を好きなのは、君が僕をそんなに好きではないから」と言ったからだ。さらにA太郎は、自分が浮気をしていることもえいこちゃんに言ってしまうのだが、これもえいこちゃんが離れていかないための作戦である。A太郎って、女の人にとってはすごくやっかいな性格です。ニューヨークでえいこちゃんを待つA君は、そんな過去を持つ二人のことも、日本に帰ってA太郎に再び会い、揺れ動くA子ちゃんのこともお見通しです。たとえ500マイル離れていても(中略)ベイビーカムバックです。恋をしていると何かが伝わってしまうんですよね。ところで500マイルって東京から札幌ぐらいまでの距離だそうです。意外と近いのであった。

えいこちゃんが最後どちらを選ぶかは内緒ですが、自分が自分であるために大切なことに気がついた時に、揺らぎは鎮まります。そして作り手として(えいこちゃんは漫画家です)一皮むけます。恋って、てこみたいにしてその人を成長させますよね〜。逆に言うと、そういう成長の仕方を選ぶ人が恋をし続けるのだと思います。

私は、相手の男性に理不尽に怒られると恋する気持ちが冷めるという大変わがままな性質を持つのですが、この漫画を読んでいる途中でふと気がつきました。
怒られることそれ自体は本当は問題ではなく「本当に怒っている理由をそのまま言うと器が小さいと思われるのが嫌だから、別の事象を持ち出して怒りをぶつけ、コントロールしようとされる」ことが、恋を一発で冷めさせるのだと。とにかくもうなんでも、自分の安心や欲のために相手の行動や考えをコントロールしようとする人が嫌なのだと。

夫が何かに怒っているのを見ると「ぷぅ!笑」と思います。私には全く理解できない怒りのツボなのだけど、彼は常に自分のポリシーに本気。この人に、ああいう種類の冷め方はしないだろうなと思います。ツボ、不思議ではありますが。

追記)
島本理生さんがトークショーで「なぜ主人公はいつも男性にモテるのか」という質問に対して「小説に書いてない部分で彼女たちはラインを送りまくったり色々してるんですよ。キレイにモテてるように見せてるだけです」と言っていて驚く。もしかしてキレイにモテてる人ってあんまりいないの?

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