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たくさんお手紙を書く

救急診療は、救急外来だけで完結することの方が少ない。たいていの場合は帰宅できたとしても翌日以降に専門科の外来受診やかかりつけ医の受診を指示する。

そこで重要になってくるのが、「紹介状」や「コンサルト文」である。自施設の外来を受診して欲しい場合には基本的にはこの「コンサルト文」が必要になってくる。なぜ、外来受診が必要と判断したのか、何を診て欲しいのか、どんな懸念が残っているかを、端的に、明確に示す必要がある。

脳神経外科へ、「頭痛の方です。診察お願いします。」
消化器内科へ、「腹痛の原因精査お願いします。」

このようなコンサルト文は御法度である。ERではどこまで精査していて、少なくとも緊急性のある疾患は除外できているとして、どんな疾患や病態の可能性があるから診て欲しいのか、もしくは、診断はついた(と思われる)のでその症状の経過を診て欲しいのか、など具体的な依頼が求められる。

これは、画像検査をオーダーする際のコメント欄にも同様のことがいえる。診療放射線技師は、疑っている疾患や症状のある部位を知ることでより適切な検査条件を提案・実施しているし、画像を読影する放射線科医は画像所見が得られている臨床症状と照らし合わせて読影している。

「腹痛の原因精査目的です」
「熱源検索目的です」

これだけのコメントは相手に失礼なだけでなく、自らの臨床能力の向上にもならない。

「お手紙」が重要なもう一つの場面は、かかりつけ医へ受診してもらう場合である。夜間や休日など、かかりつけの診療所が対応していない時間に、初めてERに受診する患者も多く、診察の結果で帰宅可能となったとする。

「今日の検査では特に大丈夫そうですよ。症状が続くようならかかりつけの先生とよく相談してくださいね。今日は痛み止めを出しておきますからね。それではお大事に」

後日、かかりつけ医を受診した際に、

「この前の休日に〇〇病院を受診したんですけど、特に問題ないと言われて痛み止めだけ出されて帰されました。なんか検査もされましたけど、結果もはっきりと教えてもらってません。ただ何かあったら先生に診てもらえって言われました」

上記のような説明だけしかしていないのであればそれは問題だが、検査結果などをしっかり説明していたとしてもどれだけ理解できているか、それをどれだけかかりつけ医に正確に伝えられるかは甚だ疑問である。たとえ医療者であっても難しいだろう。

同じようなことが、総合病院のERで働いていても起こりうる。以前にも同じような症状で他院を受診して検査をされているのにも関わらず、違うところの病院のERに、しかも休日や夜間に受診してしまうのである。聞くと、「××病院では点滴だけして帰された」「何もしてもらえなかった」などということをよく耳にする。

患者さんというフィルター越しにしか前医の意図を推し量ることができない。しっかりとした診療が行われていたとしても、患者さんにとっては満足度が低く、後医にとっても前医に対する印象が悪くなるだけである。

医師⇒患者⇒医師
よりも
医師⇒医師

で伝える方が圧倒的にスムーズである。なのでできる限り、かかりつけ医に「お手紙」を書くようにしている。気持ちとしてはこんなところである。

いつも診てくださっている患者さんが、〇〇という症状で急遽受診して、一時的に先生の大切な患者さんの診療を自分が担当しました。その受診の報告と、診察の内容を記載しております。引き続き先生に診ていただけると幸いです。診療内容でご不明な点があれば遠慮なくご連絡ください。

「かかりつけの先生にお手紙書きましょうか?ご自身で伝えるのは大変ですよね」というと、たいてい喜んで希望されます。忙しいのにいちいち手紙なんて書いてられないよ、という方もいるだろう。

ただ、帰り際や帰宅後のマネージメントをしくじると、その日の診療のすべてが台無しになりかねない。なので、ここまでやる必要がある。自分でとった所見や施行した検査の結果、それに対するアセスメントと今後のお願いを記すのみなので、大して時間はかからない。

ER診療は、決してERのみでは完結しない。患者さんが路頭に迷わないように、顔の見えない相手ともスムーズな連携をとれるようにしなくてはならない。

そのために、「お手紙」を書き続ける。


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