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2時間18分59秒考〜前田穂南がマラソン日本記録樹立

 前田穂南選手(天満屋)が2024年1月28日に行われた大阪国際女子マラソンで2時間18分59秒のアジア新、日本新を樹立しました。備忘録をnoteします。


大阪国際女子マラソン成績と通過記録

▼大阪国際女子マラソンリザルト・通過記録
アスリート(所属):前田穂南 MAEDA,Honami(岡山 天満屋)
順位:2位
記録:2:18:59
5km 16:32
10km 32:59 (16:27)
15km 49:33 (16:34)
20km 1:06:08 (16:35)
HW 1:09:46 (後半HM1:09:13)
25km 1:22:26 (16:18)
30km 1:38:36 (16:10)
35km 1:54:57 (16:21)
40km 2:11:42 (16:45)
残り2.195km ( 7:17)
備考:NAR(アジア新) NNR(日本新)、従来の大会記録も更新
優勝者はウォルケネシュ エデサWorkenesh EDESA(ETH エチオピア)で記録は2:18:51の大会新。

前田穂南マラソン全成績

▼前田穂南マラソン全成績
2:32:19 大阪国際女子 12位 2017年1月
2:28:48 北海道優勝 2017年8月
2:23:48 大阪国際女子2位 2018年1月
2:25:23 ベルリン 7位 2018年9月
2:31:42 東京12位 2019年3月
2:25:15 MGC 優勝 2019年9月
2:23:30 大阪国際女子 2位 2021年1月 (周回コース・男女混合)
2:35:28 オリンピック33位 2021年8月
闇(病み)期※
DNS 北海道マラソン 2022年8月
DNS 大阪国際女子 2023年1月
2:22:32 名古屋ウィメンズ3位 2023年3月
2:27:02 MGC 7位 2023年10月
2:18:59 大阪国際女子 2位

※闇(病み)期…出典:フジテレビS-PARK「土曜日のキャンバス」

前田穂南マラソン経歴短評

▼各大会寸評など
 2017年1月、マラソンデビュー。8月、MGCシリーズ開幕戦でチケット獲得、マラソン初優勝。
 2018年1月、MGC切符獲得済、ハイペースでの勝負にチャレンジ、五輪選考など見据えバリエーション蓄積。9月、初海外、タイムへのチャレンジ、五輪のスタートラインに並んだ時に持ちタイム、名前負けしないようになど、やや不発。
 2019年3月、ワールドメジャーズ、MGCや五輪開催地でのレース、ベルリン同様記録などのベースアップの狙いも体が冷えて失速。自己2番目に悪い記録(夏の北海道より悪い)。9月、初開催のMGCで圧勝。マラソン2度目の優勝。五輪内定。
 2021年1月、長居公園に隔離コースを設置し、五輪準備アシスト的な開催となった大阪に出場も歯車が狂い始めていた。コンディション不良「病み期」に。8月、ケガの不安を抱えたまま札幌のスタートラインへ。「五輪には出場したが本当のオリンピックは『走っていない』」。深い闇へ。
 2022年8月、五輪後初マラソンにエントリーしたがコロナ陽性で北海道マラソンを欠場。東京五輪のフィニッシュ地点からパリMGCへのスタートは切れなかった。
 2023年1月の大阪国際女子も欠場、闇は晴れず。MGCチケット獲得へ追い込まれていくがシフトした3月の名古屋で復活とMGCチケット獲得。MGCファイナリストへ。10月、MGC連覇2大会五輪代表内定を狙い積極的なレースを展開したが7位。
 24年1月、タイムのマラソンは不利との一部の見方を覆す「日本新記録」。

日本記録誕生5つの視点

★反転攻勢!新時代の記録

☆ネガティブスプリット
 前半より後半が早い記録は「否定」「陰性」ではなく「裏返し」の意味でネガティブスプリットと表現される。
 今回の記録は前半1:09:46で中間点を通過していて、後半の方が30秒ほどだが速い約1時間9分13秒。

★勝敗を分けた優勝者との差

⭐︎勝敗を分けた点、優勝者との差
 1万メートルや疲労が蓄積した状況での5千メートルのタイム、瞬間最大出力、マラソンレース内での最高スピードに若干の差があったのか。5キロごとのスプリットで言えば優勝したWorkenesh EDESA選手の最速は16分5秒(30〜35km)。対する前田選手は25キロから30キロでの16分10秒。最高区間での1キロ1秒の差がフィニッシュまでに8秒だけ詰め切れなかった。5キロごとでもっとも時間を要したのは2人とも35キロから40キロで前田選手が優勝者より3秒速い16分45秒だった。
 前田選手は滑らかな加速と高速維持、疲労に耐え抜く力は備えている、5キロ16分30秒内で押していける力はあるのだと推測されるが、5キロスプリットをどこかで15分台まで上げるなどアクセルを踏み込んで極端なスピードアップ、瞬間での加速、変化、出力アップという点では優勝者の方が上だったのだろう。

★条件が悪化した終盤での踏ん張り

⭐︎外部環境は悪かったのでは
 大会リザルトによると午後2時19分、40キロ地点の計測では西の風2メートルとある。フィニッシュするランナーたちの様子、35キロから40キロの各選手のスプリットの悪さなどから終盤、コンディションには恵まれていなかったのではないか。それでもテレビ中継車によるスリップストリーム効果が起きる先頭ランナーよりも粘りをみせた前田選手のラスト7.195キロが新記録樹立に重要なポイントの1つだったのではないか。

★中間点から果敢に〜眼差しの先にあったのは

⭐︎志あるところに道あり〜狙いは2時間18分00秒〜ハーフM1:09:00で2本
 中間点付近で前に出たのは「体が自然に反応した」と本人は通過記録をチェックして出たわけではなかったようだが、前田選手が抜け出したときテレビ画面には中間点の時計が映り込んでいた。もちろん字幕もあったが映像の中に固定点の時計だったか、随行車両に積まれたものだったか、とにかくデジタルの数字が画角の中で時を刻んでいた。1時間9分台、45秒、46秒、47秒とビジュアルで飛び込んできた。この時、「前田選手は2時間21分ではなく2時間20分切りに向かって進んでいるか」とぼやけていたものに焦点があったような気がした。「中間点を1時間9分50秒、単純に2倍すると2時間19分40秒、2時間20分突破が実現するペース」。これは史上初めて女子ランナーが2時間20分を切ったレースの中間点で感じたことだった。あの時の感じが鮮明によみがえってきた。

【補足】前田穂南は関西テレビのインタビューの中でMGCファイナルチャレンジの設定記録2:21:41について「見ているのはそこじゃない」と即答している。合わせて「2時間18分」「(ハーフマラソン)1時間9分で2本」などターゲット「アレ」が本人の中で明確に描かれていたと伺わせる具体的な数値も発言している。また大会後には中間点のタイムは見ていて狙いの2時間18分(00秒or切り)に「間に合わない」、(15キロ過ぎにとれなかったあとの)20キロの給水で体が軽くなり動いた、と通過タイムをチェックしていたことと体が反応した状況を述懐している。

★自ら動かしたペース変動・リスクへの果敢な挑戦

⭐︎中間点以降の16分10秒/5km(5キロ20秒、1キロ4秒のペースアップ)
 中間点同様、25キロのタイムも2001年ベルリンの高橋尚子さんの通過タイムに似ていた。違ったのはそのあとの5キロ、30キロの通過タイム。25キロから30キロまでの5キロを16分10秒に上げていた。15分台に上げる力が欲しいと言っておきながら、矛盾するようだがレースの半分を過ぎたばかりのところで16分10秒はものすごいこと。一つ間違えば終盤の失速の要因ともなりかねないリスクもあったが、この勇気ある挑戦が一段も2段も高いステージに導くこととなった。

※タイトル画像は2019年9月、北海道千歳にて

【改訂】
2024.03.27 欠場大会追記、目次設定、関西テレビインタビュー引用など再編集

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