北18条文学

札幌市北区北18条をテーマに活動する純文学サークルです。文学が何かはあまりわかっていま…

北18条文学

札幌市北区北18条をテーマに活動する純文学サークルです。文学が何かはあまりわかっていません。

最近の記事

『海辺にて』by北18条文学

砂浜に腰を降ろし、今野と女は海を見ていた。 「ねえ今野」 「ん?」 柔らかな風が吹いていた。女の髪が顔に少しかかる。細い目に髪の毛が入りそうだった。その様子を、今野は見るとはなしに見ていた。 「あの水平線の向こうには何があるの?」 女が尋ねる。 「ん?なんにもないんじゃないか?」 今野は言う。 「本当に?」 「ああ本当だよ」 今野はそっけなく言った。 「でも、考えてみない?あの水平線の向こうを。」 「いや、考えてもなんもないよ」 今野は海を見ながら答えた。そしてタ

    • 『愚者の落涙』(短編集「あるチャーハンの可能性」所収)by北18条文学 完全版

       北大に入学して約10年。今野は30歳になっていた。そしてまだ大学生をやっている。大学院生ではなく大学生だ。  そもそも北大というところはおかしなところで、留年は珍しくなく、一留や二留なら話題にもならない。しかし、何事にも限度はある。さすがに五留はできない。今野は今までのところ四回留年し、さらに休学もしていた。重い病気にかかっていたわけではない。海外留学をしていたわけでもない。ただ単に大学をサボっていたのである。そして30歳。同級生は皆が就職あるいは進学し、今野だけが大学に残

      • 『象の花子と大将と』(短編集「ラーメン大将へ続く道」所収)by北18条文学 完全版

        「丸山さん、ねえ丸山さん!」  飼育員の丸山が象の檻を掃除していると、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。しかし周囲には丸山の他に誰もおらず、象の花子がこちらを見つめているだけである。 「丸山さん、ねえねえ!聞こえてないの?」  丸山はまさかと思ったが、どうやらそうらしい。そう、目の前にいる象の花子が話しかけていたのだった。 「花子、お前まさか……話せるのか?」  丸山が目を見開く。 「丸山さん、私もうすぐ60歳になるのよ。象だって60年も生きていれば人間の言葉もわかるわ。」

        • 『盗み撮る』(短編集「俺は人間を探している」所収)by北18条文学

           彼女ができない己自身に業を煮やした今野が、盗撮のために改造人間になることを決意したのは5月下旬ごろの話である。正々堂々お付き合いを申し込んで、申し込んだ数だけ断られる生活に飽き飽きしていたのだ。大学にもしばらく行っていない。大学に行って同級生たちに彼女の話をされるとむかつくからである。むかつくとタバコの本数も増える。経済的にも健康的にもよくない。ただでさえ、ラーメンとチャーハンの食べ過ぎで二十代なのに高血圧気味なのだ。なので、最近は授業を全部サボって街中を歩くことを習慣とし

        『海辺にて』by北18条文学

        • 『愚者の落涙』(短編集「あるチャーハンの可能性」所収)by北18条文学 完全版

        • 『象の花子と大将と』(短編集「ラーメン大将へ続く道」所収)by北18条文学 完全版

        • 『盗み撮る』(短編集「俺は人間を探している」所収)by北18条文学