日誌 生態系と接続する

2023.8.20(日)

鳥取へ来て12年目。汽水空港を開けてからは8年目。
元々は千葉県民で、土のほとんどない場所で暮らしながら東京で文化を享受し、それはそれで楽しかったが、僕はそうやって生き続けていくことをやめようと思った。「社会(システム)」の外で、自分で家を建て、自分で種を蒔いて生きてみようと思った。価値が変動し続ける貨幣や、他人からの評価を軸とした能力や、特別なコネクションによって自分を生かしてもらうのではなく、世界をつくっている根本的な領域である自然によって自分を生かしたい。そう思って田舎を目指した。とはいえ、完全に社会の外側で生きていくことを目指したわけではなく、土と社会の両方に片足ずつ乗せて生きていくようなイメージを理想とした。具体的には「田舎の町で田畑をしながら本屋をやる」ということだ。生きていく土台を土に求める。そして最低限の現金収入を本屋で得る。本屋を仕事として選んだのは、死ぬまでずっと自分自身が変わり続けたいと思ったからで、自分自身と同じように「社会」そのものに対しても変化を促すような地道なアプローチを続けていきたい。本一冊で人の人生が変わる。そんな本が数千冊ある場所を町の中につくるということは、常にその町で静かなデモが行われているようなものだ。社会は常に問題だらけで、その問題によって常に人が死んでいる。様々な生き物も死んでいる。その社会の中で、「自分は収入に不足なく特に困ってもいないから現状のままでいい」とは、自分の場合、たとえ金持ちになったとしても思わない。そしてその問題だらけの社会を構成している一人なのだという自覚もある。じゃあどうすればいいか、うんうん悩みながら考える。その時に本があると良い。そう思って本屋をやっている。

そして店をはじめてから8年目。やりたいことのほとんどが未だやれずにいる。やりたいことは無限にある。
まずひとつ。
・汽水空港ターミナル2(食える公園)を充実させるということ。
自給用に借りているジャングルと化した元梨畑の土地がある。ここで野菜や果樹を育て、井戸を掘り、サウナをつくり、共用のキッチンをつくる。ヤギや鶏も飼いたい。実っている野菜は誰でもどれだけでも収穫していいと公言している。何がしたいかというと、遊びながら「公共、権力、金、労働」などに纏わるあらゆる問題を自分に引きつけて悩みたい。それも一人で悩むのではなく、関わる人々と共に悩みたい。そして共に考えたい。
もうひとつ
・自宅の裏に借りている住宅を改修したい。
この住宅は旅人が滞在するゲストルーム、工具のある作業場、「モリコーラ」などの食品加工場、古本の倉庫として使いたい。今、日々少しずつ片付けをしているところだ。

やりたいことは書きだしていけばまだまだ無限にあるが、今一番やりたいのはうえの2つ。これをずっとやりたいと思い続けている。しかし実現するには金がかかり、金がない為に時間もない。それでずるずると今まで実現されることなく今に至ってしまった。クラウドファンディングみたいなことをやるのも考えたことはあるが、一時的な資金を得るのではなく、汽水空港という場所を通じてちゃんと一定の収入を稼ぐことができる状態をつくったうえでやっていかないと回っていかないような気がしている。じゃあどうすればいいか?それがずっと分からなかった。今も分かってはいない。試行錯誤の最中だ。

試行錯誤のひとつとして、育てた野菜を使った「機内食(軽食)」を妻のアキナが店で出し始めた。メインディッシュは3種類。ガパオライス、シェントウジャン、バンチャンヌン。この3種類から選べる。さらに野菜、スープ、デザートがついて600円。安すぎると言われるが、金なくても気軽に美味しいごはんが食える店でありたい。今2ヶ月くらい経つが、なかなか機内食を求めて来る人は少ない。ということで徒歩圏内にチラシをポスティングしてまわっている。多分、未だ汽水空港が何屋かも知られていない。基本的には本屋だけど、飲み食いもできる場所ですよというアピールをしていく。

ここからは日記として書く。(というか日記を書くつもりで書き始めたんだった)

8月20日、日曜日だというのにヒマ過ぎる。機内食はさっぱり出ない。日曜日はみちくん(1歳11ヶ月)のこども園も休みで、ヒマな店内で我々モリ家は歌い踊ることしかできない。僕はしばらくみちくんとぐるぐる回転しながら店内で踊っていた。目を回したみちくんが転倒し、机の足で頭を打って号泣したところでハッと気づいた。踊ってる場合じゃない。僕は印刷したチラシをトートバッグに詰め、水筒にお茶を入れ、みちくんに帽子を被せてチラシ撒きへと出かけた。
外は最高に暑い。汽水空港から徒歩圏内の全ての家にポスティングしてまわる気持ちだ。まずは松崎神社を目指し、神社から店に向かって通りを一本一本塗りつぶすように歩く。みちくんは早々と寝た。一軒一軒の家々をまわりながら、県や町の全体的な政治スタンスを考えてしまう。基本的には自民党が好きな人が多いように感じる。そんななかで、汽水空港が扱っているような本を読む人は少ないかもしれないよなと思う。最近読んだインド仏教を再興した偉大なお坊さん、佐々井秀嶺さんのことを思い出しながらポスティングした。佐々井秀嶺さんは仏教をインドで再興するべく、身一つで辿り着いた町で念仏を唱えながら練り歩いた。仏教発祥の地で、ただ仏教を広めようと町を歩いただけで彼は石つぶてを喰らい、袋叩きにあったと書いてあった。ヒンドゥー教と仏教の衝突がそうさせたらしい。それを思えば、汽水空港の活動で石つぶてを喰らうなんてことはないのだから、多少の政治的スタンスの違いや生き方の違いくらいたいしたことじゃない。
図書館にも立ち寄って、本の卸しができないかと営業をした。館長はすぐに、快く応じてくれた。事前に友人の司書Tさんが話しを通してくれていたのも大いに影響していると思う。Tさんありがとうございます。鳥取の名書店、定有堂の奈良さんが「鳥取県は県の方向性として、図書館は地元の本屋から本を買うことにしている」と教えてくれて以来、図書館との接続を試みている。まずは店から一番近い図書館と接続することができた。
世の中は「出版不況」とか「読書人口の減少」とか言われているし、アマゾンだってある。昨日読んだジブリの冊子『熱風』はヴィレバンの社長、菊池さんのインタビューと、title辻山さんによるon reading黒田夫婦へのインタビューが載っていた。どちらのインタビューも面白かったが、いつも本屋の話を見聞きする度、都市部の本屋の話しは状況が異なり過ぎてあまり参考にならないと思う。地方of地方で、店の数もほとんどなく、人も少なくなった町では、街の当たり前の日常はもうない。「街の本屋」が成立するには、まず「街」が要る。だから、僕はよく「店をやる場所を間違えたのかもしれない」と思う。地方でも個人商店だらけだったかつての町の写真を見て泣きそうになる。集落の草刈りで「モリ君の店、こないだ入ったけどなんか異様で奥まで行けんかった」と言われる。何が異様だったのかはなんとなく分かる。電球の光が異様なのだ。個人商店の少なくなった田舎では、ほとんどの店が明るい。蛍光灯の光だ。その光は、客と店員という関係を定める力が働いていて、決して店員という領域から人間性がはみだしてこないだろうという予想を立てさせている。電球は多分、人間味がありすぎる。と、毎回僕は挫けそうになる度にこんなことを考えている。実際に電球の光のせいで異様だと感じられたのかは分からない。
店をやる場所を間違えたと思わない為、異様だと言われるのを照明のせいにしない為、やっていけないのを時代のせいにしない為、やれることは全部やろう。少子高齢化が進んでいくこの国で、今僕が暮らしている町の状況は未来の風景でもある。人口が少なくなり、コンビニとチェーン店ばかりの町。そんな町が既にたくさんあるし、これからも増える。そんななかでも謎の異様な本屋を存在させ続けたい。幸い、鳥取県の図書館と本屋とは接続しやすい環境にある。この利点を活かさない手はない。この記事の冒頭で「特別なコネクションによって自分を生かしてもらうのではなく」と書いたが、実家の千葉を出た時と今とでは考えが変わっている。人はそれぞれ、その人にしか接続できないものがある。人だけでなく、植物もそうだ。微生物と植物とが互いに分解できるもの、排出したものを交換するように、生き物には固有の特質があり、互いの特質を通じて接続し合っている。接続できるものを見つけていくことは、独占することではない。本屋の数が限りなく少ない鳥取県で、図書館へと本を供給するのは競争の果てに勝ち取る関係でもない。むしろ、千葉からふわ~っと飛んできた謎の種が、この地でずっと水を求めて耐えたのちにやっと降り注いだ雨として図書館の話しを捉えている。死なずに続けたからこそ見つけられた接続点。この関係に甘えさせてもらう気満々だ。どんな時代でも、どんな場所でも図書館にだけは本が残り続ける。公共図書館、学校図書館、私設図書館、県内のあらゆる図書館にこれからラブレターを送る予定だ。汽水空港という場所に来てくれる人の数には限りがある。諦めない為にチラシをバラ撒いてるが、実際には諦めてもいる。ここだけでは届く場所に限りがある。だから、町のあらゆる場所にちょっと汽水空港をはみ出させたい。具体的には『ラダック懐かしい未来』とか『気流の鳴る音』みたいな本を図書館に散りばめるようなことをしたい。本一冊で人の人生が変わる。あらゆる場所に静かなデモを起こしたい。そしてその活動が、店を経済的に安定させもする。そして経済的に安定すれば、店番のアルバイトを雇える。そして僕はできた時間でターミナル2を充実させることができる。ヤギと戯れ、誰でも実りを収穫し放題の夢の実験農場を。そして自宅の裏の家では、そんな実験農場で作業しながら旅人が気ままに長期滞在できるゲストルームがある。
今はそんなことを夢見ている。

これから、そんな夢を見続ける為の日記を書いていきます。
そしてその日記を通販のオマケにします。近隣の方々だけでなく、遠方からわざわざ通販で買ってくれる人になんらかオマケをつけたい。送料高いし。というわけで、次回からの日記は有料非公開にします。






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