「もう大きくなったからね。」

2歳9ヶ月になる道くんは、自分で布団を用意したり、ごはんをつくるのを手伝ってくれる時がある。こっちはそうしようと意識せず「すごい~!!」と驚く。すると道くんは得意げに「もう大きくなったからね。」と言う。大人になること、成長することへの素直な憧れと喜びがある。この喜びは本来、人間が死ぬまでずっと抱かれるものだ。
僕は小学生の頃には既に「大人になりたくない(社会という土俵に立ちたくない)」と思っていた。大人になるとは、自分を押し殺すことなのだと感じていた。枠に入ることを許可される為の努力、枠内で問題なく働きを維持する為の努力、それらの努力を忍耐して生きるということが「社会という土俵に立つこと、大人になること」だと思っていた。
でも、生きるということも、大人になるということも、全然そんなことではなかった。枠に入るのを許可されることを諦めてから、自分で自分を生き延びさせていこうと思った。それで家を建てられるようになったし、米を育てられるようになったし、野菜も育てられるようになった。料理もちょっとずつ上達している。自分で自分の商売(本屋)も始めて、それを維持、発展させている。なんらかの壁にはその都度その都度ぶつかるが、乗り越えようと工夫する度に知恵と技術が身についている。生きていく時間を増すごとに、できることが増えていく。考えが深められていく。それが「大きくなる」ということだ。枠を無視すれば、人はどんどん大きくなることができる。道くんは毎日大きくなる喜びを感じている。その喜びが喜びのままでありますように。父ちゃんも喜びながら生きていこう。

あ、多分そのあとは「できていたことができなくなる」も来る。でも多分それは「できなくなることができるようになる(できないことを認める深み)」だ。それもまた大きくなることと言える。

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