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日誌 2023 10.24(火) 草枕

中身の見えない本、あんポン&カレーポンの中身を選ぶ。あんポンはあんこだから甘い≒読みやすい本を入れる。
ひとつ中身をバラしちゃうが、あんポンに今日は夏目漱石の『草枕』を入れた。『草枕』の冒頭は

山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安いところへ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、画ができる。

『草枕』夏目漱石

という文章で始まる。僕はこの一文が大好きだ。夏目漱石なら誰もが知っているけど、草枕の冒頭を誰もが知っているかというとそんなことはない。そして店頭に草枕を置いていても手にとる人は少ない。この一文と出会ってもらいたいというだけで僕はあんポンに草枕を入れた。

あんポン&カレーポンをつくりながら、「最近の子どもは映像やゲームばかりだ。本を読まないから想像力が育たない」と自分が子どもの頃に言われた言葉を思い出していた。僕は当時、素直にそうなのかもしれないと少し危機感を持った。そんなことを思い出しながら作業を進めていると、「文字になったものなんかで大切なことが伝わるものか」という太古からの声が聞こえた。素直にそうなのかもしれないと危機感を持った。
僕は本屋をやりながら、文字以前の世界を夢見ているのかもしれない。文字以前の世界とは、つまり「偶然」のことだ。人が何かと出会う偶然。
今日、zineを卒論テーマにしているTさんと色々話した。「ずっと店にある本が、SNSで紹介した途端に売れる。僕はなんかその時、寂しいような、腹立たしいような気持ちになるんですよね。」と言う自分の言葉に、偏屈過ぎるだろそれはと感じて、「何故かというと…」と、その理由を心の内に問いかけた。それで分かったのが、恣意的な誘導で出会わせたいのではなく、偶然の発生率を高めたいという欲求を持っているということだった。手にとってほしいのにアピールをせずに待ち続ける。めんどくさい彼氏or彼女のようだ。しかもそこで期待される偶然は、このおれさまが良いと思う偶然だ。このおれさまが。しかしそれでいい。おれさまが思う「良さ」が、あなたにとってもそうであったら嬉しいという一方的なラブレターの暴力性くらいは店をやってるくらいだから持ってる。

今日は小泉さんがハワイ在住の都市計画に携わる教授を連れてきてくれた。wccのことを話したらすぐに要点を掴んでくれた。「困難や困りごとはマトリョーシカのようだよね。身近な困りごとからでも、気候変動や経済のことからでも全てが連結してる。」と言っていた。そう、全てが関係してる。関係しているという自覚から始めたい。

90歳を超えるおじいちゃんが最近よく店に来てくれる。短歌を詠んでいるらしい。しかしおじいちゃんの発音はなかなか聞き取りづらく、例えば「鳥取」は「ぽっぽり」に聞こえる。話の内容は2割くらいしか分からないが、30分間、聞き取れないなあと思いながら相槌を打つタイミングだけ逃さないように注意深く耳を傾ける。本屋をやっていることを凄く応援してくれているのは伝わってきてとても有り難い。
田舎で生活していると高齢者と接する機会が多い。正直、全然話しが聞き取れないし、質問しても伝わらないから会話としては成立してない。ただみんな、楽しそうに話し続けてはいる。耳を傾けるだけでもいいのかもしれない。

17:30、みちくんを迎えにいく。今日もダンゴムシスポットへ立ち寄りながら帰る。
夜、オムツを替えようと言うとおしっこでパンパンのオムツを履いてるくせに「替えた!」と言い張った。オムツを替えられたくなくて、初めて嘘をついた。思わず「凄いなみちくん、君はもう嘘がつけるのか!」と褒めそうになった。


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