夏のある日の店番

「協生農法」という農法があるらしく、ターミナル2で区画を借りてそれをやってみたいという方が現れた。人から忘れ去られた集落の一番奥に位置する耕作放棄地、汽水空港ターミナル2。今はプロ農家も含めて総勢8人が使っている。敷地はまだまだ広く、奥へ進むにつれて草から低木へと植生が変わる。僕が借りる以前は梨畑で、梨畑になる前の植生を知る人はもういない。それでも色々な歴史を経てきたのだろう。この場所で初めて栽培をした人は何本もの木を切り、土地を平らに均したことだろう。その汗を記憶している人はもういない。
食べ物をスーパーで安く買うことのできる現代、田畑は必ずしもやる必要のないものになった。その分だけ、関心も少なく、土地への執着も無くなった。使われなくなった田畑は有り余っている。土地を使う為の対価が必要ない時代になった。この状況は恐らく人類にとって初めてのことで、僕は、現代を生きる人類の一人として、記憶を失った土地と出会い、この土地をどのように使うのが現時点でベストなのかを考えている。
畝は無料で借りることができる。農法としては、無化学肥料、無農薬ということを守ってくれたら耕しても耕さなくてもなんでもいい。土地に生きる虫や草木、土の中に暮らす生物たちをなるべく殺さないような利用の仕方をそれぞれに深めていけたらと思う。山も田畑も宅地も、「経済」の為に利用され過ぎている。それで人も他の生物もハッピーならいいが、全然そうなっていない。経済の為に土地を利用するのではなく、生きていく為に借りる。誰から借りるのか。それは未来に生きる人たちや生き物から。そんなことを考えている。

そんな話をした後、関金に暮らすフランス人のファリドさんが友達を連れてやってきた。汽水空港のある町よりももっと山奥の町で田畑をしながら暮らしている愉快な人。今度は語学学校を始めたいらしく、その構想を聞かせてもらう。汽水空港を始めてから9年。鳥取に暮らしてからは13年。5年~10年スパンで町のことや計画のことを見通せるようになった今、語学学校が出来た後の未来もイメージすることができる。もちろん勝手なイメージだけど、粘り強くやっていけば何事も良い方向へ進むということを体で知った。きっと楽しいことになるだろうなと思う。

汽水空港はお客さんの数はけっして多くはないけど、色々な人が来てくれるようになった。一日のうちでも色々な人の夢を聞いて、その度に僕も考えを巡らせている。今日は美術の先生が教え子の中学生と来てくれて、zineのことを伝えたりしていた。何事も起きていないような田舎の小さな町だけど、毎日色々なことが起きている。今日、明日ではなく、数年後に実るであろう色々な種を毎日見つめている。それが希望だ。

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