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夜が長かったころ

子供の頃、自分の部屋がなくて家族3人同じ部屋で寝ていた。そのころ両親はよく喧嘩をしていて、口で父親に勝てない母親は途中で折れて、黙って怒って真っ暗な寝室にこもって眠ったふりをするのだが、多くの場合私もそれに付き合わされていた。

どうして仲良くできないのか、どうして分かり合おうとしないのか。自分のことで喧嘩になったとき、いつも死にたかった。怖かった。苦しかった。父の口調が怖かった。父が感情に任せて家を飛び出してしまったときは、もう帰ってきてほしくないと思ったこともある。そうすれば平和だと思った。

まだ夜の7時くらい、当然ながら眠くはない。寝室の窓、アパート裏の駐車場に車が出入りする光、音。眠れない中、ずっとぼんやりそれらを感じる。時間の流れがあまりにもゆっくりに感じた。また1ヶ月くらいまともに口をきかないつもりなのだろうか。家の中の空気が、両親の剣幕が恐ろしくて、暗闇の中で静かに泣きながら、明日になれば何事もなかったみたいに元通りに仲良くなっていないだろうか、などいろいろ思う。毛布だけが優しかった。

当時はこれが結構普通の出来事としてよく起こっていたけれど、今思えば異常だったのかもしれない。父が怒って暴れて部屋をぐちゃぐちゃにするのも、母親が飲めない酒をたくさん飲んでおかしくなってしまうのも、小さな私には本当に本当に怖かった。

こういうこと、ときどきフラッシュバックみたいに一気に思い出されて、けれどしばらくしたら何も思い出せなくなってしまう。思い出したときにメモを残していることがあって、この出来事もメモをもとに書いている。メモに残して見返すと、自分の一部から切り離されたような、どこか客観視できるような気がする。

苦しかったこと。こんなことで、と思ってしまうけれど、どんな小さなことでも当時の自分にはどうにもならない苦しみだったのだから、苦しかったんだね、と肯定してあげてもいいのかもしれない。そうすることでしか自分を助けてあげられないのかもしれない。いつか苦しくなくなる日が来ますように。