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いなくなった先輩と太陽の黒点。天皇賞秋で重なるあの頃と今。

ちょうど十年前の今頃の話。

あの年は夏から記録的な猛暑が続いていて、月末になってやっと涼しくなってほっとしたような気持になったことをよく覚えている。

確か観測史上歴代一位の猛暑だったらしくて、関西の方だと35度だかにまでなっていたニュースを見た記憶がある。

太陽の黒点がどうのこうのだとか、エルニーニョ現象が終息したけどラニャーニャ現象があれだとか、なんか地球的にあれだったんだろうな。

読者諸兄のためにこのあたりの猛暑になった要因も解説してやりたいところだったが、やっぱりそれは各自でやってほしい。

大体こういうのって何で習うんだ?

社会だっけか?それとも理科なのか?

どちらにしても、とにかく中卒の俺には理解が出来ないくらいに暑かったんだ。

まだ今と比べちまうと駆け出しの芋野郎だったかもれねえな。あの頃の俺はよ。

おそらくガキの頃にシンナーを吸いすぎて大脳が萎縮してバカになっちまったAくんって先輩と野球賭博にハマっていた頃でもある。

阪神にマートンがいた頃で、十月の頭の方で211本目を打って、イチローの最多安打記録210本を更新したんだ。

Aくんは別に関西生まれでもなんでもないのにやけに阪神が好きでよ、この年も阪神の猛打線によってずいぶんと景気が良かった。

それも当たり前の話で、この年はチーム打率.290もあってダイナマイト打線なんか呼ばれているくらいにタイガースはイケイケだった。

マートンだけじゃない。

ブラゼルに平野、鳥谷に新井。とにかく三人バットを振れば誰かが打つような状態で、見ているこっちも楽しかったもんだ。

だが今でこそブックメーカーなんかも浸透しているが、普通の野球賭博はハンデってもんがあるだろ?阪神は勝ってもAくんは負けるって日が続いたんだよな。

まあツキもなかったんだろう。

マートンが記録を作った数日後、Aくんは毎日王冠のペルーサで起死回生の単勝に張り込んだら出遅れちまった。

今でこそペルーサの出遅れ癖なんか、競馬ファンには有名な話だが、まだこの頃は次こそは次こそはってムードだったし、青葉賞の切れ味を俺たちなんかは現地で見ていたから、あの馬に期待する気持ちもわからないでもない。

固まってたな。

俺は馬券買ってなかったからレースよりもAくんを見ていたけど固まっていた。

その後ふっきれたようにそれでも末脚で何とか出来ると信じるような目でターフを見ていたけれど、最後方からで届く展開ではなかった。

あの人はもうこの街からも飛んじまってどこにいるかもわからねえんだけど、本当のところ何のシノギをしていたんだろう。

一体どんな付き合いがあって、どこからゼニを引っ張っていたのか今となってはわからないが、まあ先にオチを話すと最後はパンクしていなくなっちまったんだ。

俺がわかっているのはAくんは大麻の栽培農家で、東急ハンズでロックウールや肥料を買いに行くのに付き合ったこともあるし、まだ色々と緩い時代だった。

逮捕されるされないという問題はあるが、博打にさえのめりこまなければ街からふけるような結末にはならなかったと思う。それくらい評価されていたグロワーだった。

「なあ、リー。ちょっと金借りれない?」

その毎日王冠から十日くらいするとAくんのマンションでそう言われた。

俺は少し無言になってしまって、その間に奥の部屋からエアポンプの音がポコポコと時を刻む音を奏でていた。

「どれくらい、詰まってるんですか?」

俺がそう聞くと、Aくんははぐらかすようにこう言った。

「種銭で200くらいあればどうにか出来るんだよね」

付き合いもそれなりに長かったし、俺はその頃は金貸しもやっていたから大体のことを察した。

そのゼニを原資に五倍、もしくは十倍くらいにしないともう首が回らないんだろうなってことを察した。

「野球ですか?馬券ですか?」

俺がそう聞くと、馬券だとAくんは答えた。

結論から言うと、俺は200を貸して、Aくんはそれを天皇賞でペルーサに入れた。

確か単勝9倍くらいあって、勝てば人生のレールも既定路線に戻せたんだろうなと思ったよ。

だがやっぱりペルーサは出遅れるんだ。

最後方スタートから上がり最速で勝ったブエナビスタから二馬身差。

ゲートが五分なら勝っていただろうなという典型的なレースだった。

「これ、もう一回やり直してくれねえかな」

Aくんは崩れ落ちるような感じでそんなことを言っていた。

「先輩、俺別に全然ゼニ急いでないんで、仕事頑張りましょうね」

俺はそう返した。

もうなんだかポン中の切れ目みたいに落ち込んじゃってるから、出来る限り励ましたつもりなんだけどな。

しかし次の日からはもう連絡が取れなくなった。

そうするとしばらくしてゼニの貸し借りの話が出てくる出てくる。

相当まずいところを含めて8000万くらいの借を作ってしまっていたんだ。

俺は、その状況でどうしてAくんがその状況で俺に200万貸してくれって言ってきたのかをたまに考えていた。

答えは未だに出ないが、あの200万が1800万になっていたらあんたどう立ち回るつもりだったんだよ。

あれから十年、ガキの頃の引っ越しの時に、あんたの中古の冷蔵庫をもらっていた俺だけど、それなりに色々な経験があった。

もうどうにもならない債務に対して何分の一かでも入った時に、そんなタイミングでポンジ詐欺師になっちまったやつをたくさん見かけてきましたよ。

今、もしも先輩に会えたらそう言いたいよ。

たくさんの債権者に、まずは金利を一周つけてどこかに元本を返済してまた引き直しする。

そんなことをやっている間に借金は膨れ上がっちまう。

数か月で何億も引っ張り散らかしていたのに、捕獲したら2000円しか持っていなかった。自転車野郎にはそんなやつばかりなんだ。

被害額、被害者の人数もそうなると二次関数的に増加していく。

秋の天皇賞の直前になって思うのは、そうなるよりはAくんがあの日に飛んじまってよかったんじゃないかってこと。

本当に何してるんだろうな。

タイの振り込め詐欺グループが一網打尽にされた時のニュースに似たやつが映っていたって話もあったけど、俺はあの右側のやつがAくんだとは思わない。

ホンダのドリーム50っていうおもちゃみてえな50ccで、最初に単車の乗り方を教えてくれたのもあんただったのに。

猛暑の夏に一緒にいろんなシノギに手を出して汗かいて駆けずり回ってさ、それなのにあんたが飛んじまったあの日は朝から雨も降るような寒い日で、それでも逆に冷や汗すらも出なかった。

時間が経つと記憶は薄れるものだろう?

良いところと悪いところ。

会えなくなった人間に対してどう思い出すのが一般的なのだろうか。

俺は良いところが多いかな。

俺が女に怒鳴っちまった時に何時間もファミレスで説教してくれたことや、かっこいい音の出せるエンジンブレーキのかけ方。チキンラーメンはお湯がなくてもおいしいこともAくんから最初に聞いた。

あとは街の連中相手なら絶対に当たるオーバーハンドの右フックとか、ドライフラワーを作る時の香りを残すキュアリングのやり方。

色々なものを残してあんたは消えた。

そう思うと、Aくんは良い先輩だったように思えてくるから時の流れは不思議だぜ。

なあ、もしどっかで先輩が見ていて、そしてもし今景気がいいのなら、それなら200万返してもらってその足でそのままそのゼニを小便にでも変えちまおうぜ。

うちの母ちゃんの携帯変わってねえし今でもあの家に住んでるから。

今の俺なら、もしかしたらあんたに届くかもしれねえだろ?

数字のゼロは見せかけに過ぎないって神田の闇金で俺に教えてくれたあんたに俺が能書き垂れるのもどうかって話だけど、俺は今、SNSってやつにそれくらいの可能性を感じている訳。

毛抜きで白髪を抜きながらよ。

さて、そんな秋の天皇賞。

今年も直前にはパラパラと雨が降っていた。

だらだらした序文が続いたが今年の俺の馬券はあの年の先輩と同じ、本命が2着というドラマを見たい。

芝G1八勝馬は誕生するのか否か。

世間の焦点はまずそこだろう。

シンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ディープインパクト、ウオッカ、ジェンティルドンナ、キタサンブラック。

確かに芝G1での八勝目には、数々の名馬でも超えられなかった壁がある。

このレースで俺が好きなのはトーセンジョーダンの年かな。以前にも記事を書いたことがある。

シルポートが引っ張るハイラップを、持久力勝負に強い馬たちが上位の上がりで掲示板を独占してのレコード決着となった。

翌年もシルポートはレースを引っ張ってエイシンフラッシュが上がり33.1の切れ味で勝利、3着となったルーラーシップも上がりは同タイム。

今年はどうだろう。

そこまでの逃げ馬がおらず、おそらくは③ダイワキャグニーがハナ。
去勢後は間違いなく馬は良くなっているが、飛ばして逃げると脚が持たないタイプ。

以前金鯱賞で逃げた時は道中でペースを緩めての勝ちパターンの逃げだったがサートゥルナーリアに上がり33.2秒の剛脚で差されてしまった。

しかし2400mのジャパンカップではタフなコンディションの馬場を1000m通過1:00.3のペースで逃げて残り300m地点までは先頭。

とにかく府中でしか仕事をしない馬で、8勝全てが東京コース。

57.5kg以上を背負った時の成績が気がかりだが、去勢で馬もこの年齢で進化しているし今回は自信を持っての積極策を見せてくれるのではないかと考えている。

冒頭の話に戻るが、もしもアーモンドアイが過去の名馬達のように八勝目の壁に跳ね返されるのなら、それは4コーナーを回った時に、彼女より前にいる馬たちによってだろう。

逆もある。

強気の先行策をして、誰かに差されるジェンティルドンナがスピルバーグに差された年のような負け方だ。イスラボニータとの争いが長引いたのも要因のひとつだが、思わぬ馬が上がり最速で突き抜けてくるというたまにあるパターンの波乱。

これだけアーモンドアイ以外に焦点を当てて話しているから、もうわかると思うが俺は別から入りたい。

強い馬は好きだけど、強い馬が負けるところも見たい。

今年はそんな俺には散々な年で、ダブル三冠馬も成立しない前提で馬券を組んでいるし、今さら史上初の名馬が誕生する方に勝負するという訳にもいかないんだよな。

勝つはずの馬がどこかで負けるシーンがないと、俺の逆張りは報われない。

それならどこから入るか。

ディープインパクト産駒は1勝、2着が6回。前を行くキングマンボ持ち、もしくはトニービン持ちを捕らえられなかったというのが2着の基本パターンで、それなら今年もアーモンドアイが1着で2着にディープ産駒でいいじゃねえかってくらいの傾向があるが、あえてこれに逆らう。

人気薄で連対した馬の血統に目を向けると、前述のキングマンボ持ち、もしくはトニービン持ち意外だとフレンチデピュティかND、もしくはミスプロのクロス持ち。

ただこれに該当馬が多すぎる。

フレンチデピュティが母系にありミスプロ4x4の⑦クロノジェネシス、もしくは7番人気2着だったリアルスティールと近い血統構成(ストームキャット肌でNDクロスがあるディープインパクト産駒)の④ダノンキングリー、あとは父ルーラーシップ自体がトニービンとキングマンボを持っている⑧キセキだろう。

③カデナもここで好走する血統だがさすがに塗れても連下か。

馬券はアーモンドアイの2.3着付けの3連単で行く。
勝たれたら素直におめでとう。

三連単④⑦⑧→⑨=①②③④⑥⑦⑧⑩⑪

馬連&三連複④⑦⑧⑨BOX



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